オレが勝てるところ
「いらっしゃい架音ちゃん」
「架音!いらっしゃい!」
『こんばんは』
ハロウィンの夜。
兄さんが帰ってくる時間を見計らって架音が家に遊びに来た。
年齢はオレと兄さんのちょうど間。彼女とは昔から家族ぐるみの仲だ。
ハロウィンの日はお菓子を持った架音が来るのが恒例となっている。
「架音、トリックオアトリート!」
『はいどうぞ。…サスケくん、また背が伸びた?』
「うん!兄さんを抜かすのが目標だからね!」
『ふふ、そうね』
「…誰がオレを抜かすって?」
「兄さん!」
『イタチ。お邪魔してるよ』
騒ぎを聞きつけてきたのか、奥の部屋から兄さんが現れる。
服を着替え荷物を片付けた兄さんは、任務を終えた帰宅時の張り詰めた空気を纏ってはいなかった。
「なんだ…もうサスケはお菓子を貰ったのか?」
「うん!」
大好きな兄さんと大好きな架音。
二人が揃ったとき、オレの中で密かにもやもやとした気持ちが広がっていく。
『まだしばらく忙しいの?』
「ああ…すまないな、なかなか時間が取れなくて」
『いいよ、仕方ないよ。もし空いたらイタチと行きたいとこがあって…』
最近の悩み。それは大好きな二人の仲の良さだった。
大好きな兄と大好きな架音が仲良くしていることはとても良いことだと思うのに、何故だか心のどこかがもやもやする。
それを“恋”という言葉で形容したらこの気持ちのすべてに納得がいったから、きっとそうなのだろう。オレは架音に、自分でも気付かないうちに恋をしていたんだ。
兄さんと話すときの架音の表情。
架音と話すときの兄さんの表情。
視線の先。言葉遣い。二人がしている約束。
今までなんとも思わなかった行動や仕草が、すべてオレの悩みに変わる。
身長も年齢も上。忍びとしての実力はもっとずっと上。
越えられない兄。手の届かない兄。オレじゃ兄さんには敵わない。
架音もオレと兄さんだったら兄さんを選ぶんだろうな。
そう思っていた。
けど、
恋をして悩んでいる間に、少しずつ分かってきたことがある。
「架音、もっとお菓子ないの?」
『あら、足りなかった?
ごめんね、サスケくんあんまり甘いものは好きじゃないと思ったから…そんなに持ってきてないの』
「…サスケは今でも甘いものが苦手だろう?」
まず、架音はオレにとても甘い。お菓子が甘い方の「甘い」じゃなくて。
全然意識していなかったけど、意識しだすと兄さんに対するそれの比ではないことがよくわかる。
とにかく架音はオレのことを可愛がってくれる。遊ぶ回数も兄さんより圧倒的に多い。
もちろん単純に兄さんが忙しいせいだし、可愛がってくれるのも子供扱いされているからだと分かっているけど、そのおかげで自然な流れで近付くことができるのは確かだ。
「今日はハロウィンの特別なのが食べれるんでしょ?だったらそれ食べたい。
母さん、架音とケーキ買いに行っていい?」
「ええ、いいわよ」
「架音!行こ!」
『ん』
――ほら、手だって簡単に繋げる。
オレに甘い架音は当然その行為に何の疑問も抱かないし、むしろ握り返して笑ってくれる。兄さんだったらこうはいかないだろう。
そうすると決まって、常にポーカーフェイスの兄さんの顔が少し険しくなるんだ。
「…母さん、オレも行ってくる」
「行ってらっしゃい」
そしてオレと架音が二人になる状況になると、兄さんが必ず割って入ってくる。
入ってはくるけど、兄さんはオレと同じようには架音と手を繋げない。ただ隣に並んで歩くだけだ。
恋をして分かったことは、
身長も年齢も実力も敵わないオレでも、兄さんに勝てる要素があるってこと。
「甘さ控えめのやつ売ってないかな?」
『無理して食べなくても良いのに』
「してないよ!」
架音を真ん中にして、手を繋いだオレは向かって左側。兄さんは右側。
架音がオレの言葉に反応して微笑む。恋をしてからその笑顔が一層好きになった。
「サスケは架音と出かけたいだけだろう?」
『あらそうなの?嬉しいな』
「べ、別に……兄さんだってそうだろ!」
ただ、オレの考えてることは兄さんにはお見通しのようで。
甘いものが苦手なオレがわざわざケーキを買いに外に出るわけがないことはすでにバレているみたい。
負けじとオレも言い返してみるけれど、
「…そうだな、オレは和菓子が良い」
『良いのがあるといいね』
話の躱し方は、さすがに兄さんってところだ。
大好きな兄さんと大好きな架音。
いくら大好きな兄さんだからって、架音を渡すわけにはいかないからな。
繋いだ手を自慢するように見せつければ、架音の向こう側の兄さんが「望むところだ」という風に笑った。
オレが勝てるところ
(サスケは架音が大好きだな)
(兄さんもだろ!)
END.