3
──
「まったく、母さんは急すぎるんだから……」
「本当にな」
大量のお菓子が詰まった紙袋をひっくり返しながら、隣の兄に文句を垂れ流した。
まさか今から来るだなんて。
急いで手元のチョコレートを食べられる分と食べ切れない分に分ける作業に入る。
正直なところ、緊張していた。
最後に会ったのは去年の夏だから、もう半年以上架音と会っていない。
「(どうしよう…何話せばいいのかな……)」
綺麗にラッピングされた箱を手に取りながら、もしかして架音も誰かにあげたのかななんて。
会わない間に恋人でも作ってるかもだなんて。
あれだけ色恋沙汰に興味など持たないと思っていた自分が、気付いた時には心を奪われていた。
――片思い、していた。
稽古の後とか、アカデミーですれ違った時とか。チャンスはいくらでもあったはずなのに結局言い出せずにここまで来た。
いつも兄と一緒だったから、架音は兄のことが好きなのかもしれない。そう何度も考えた。
でも違った、逆だった。兄が彼女に惚れていた。
常に冷静沈着な彼が彼女の言動には動揺し、家族の前でもあまり表情を変えないくせに彼女の前ではよく笑っていた。
初めて架音を家に招いた時、母に「イタチが彼女を連れてきたわ」と騒がれ、彼が柄にもなく焦っていたのは鮮明に覚えている。
「はあ……」
ひとりでに溜息が漏れる。
何もかも完璧にこなす憧れの兄。いくら頑張っても常に先を歩いていく兄。他の誰よりも手強い強敵だった。
「あら、いらっしゃい!」
「…!!」
不意に遠くで聞こえた母の声に、体がびくりと震える。同時に作業の手がいつの間にか止まっていたことに気付いた。
まずい、こんなに早く来るなんて。それとも自分の動作が鈍っていただけか。
目の前にあった残りの山をざっくりと適当に分ける。
――久しぶりね、架音ちゃん。
――ご無沙汰してます。
どくり、どくり。
確実に近付いてくる足音と共に、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じた。