わたしだけにキスして。

 


「あ!あれ、イタチさんじゃない?」


「今日も素敵ね」




昼前の、大通りのすぐそばの公園前。周りの女の子達から黄色い声があがる。
その的になっているのが私の彼氏。本人は全く気にしていないみたいだけど、彼女として気にしないわけがない。


デートの待ち合わせ。
10分早く来た私は、5分早く来た彼と合流する。




「すまない架音、待ったか?」


『…少し』


「変な男に声かけられてないか?」


『大丈夫ですー、わたしは兄さまとは違うの』


「……?」




こうして会話している間にも聞こえてくる周りの声。

カッコいい、素敵、羨ましい。
そんなの私が一番分かってる。
今だって、彼女でいられるのが信じられない。


早く脱出したくて、たくさんの人の間を腕を引っ張って連れ出す。
私の機嫌が悪いことに首を傾げながらも、彼は大人しく引っ張られて歩いた。




──




「どうした、そんなに口尖らせて」


『むー』


「キスでもして欲しいか?」




すっかり日も傾いて暗くなりだした頃。デートも終わって彼の家に帰宅する。
自分の家じゃないけどだいぶ見慣れたリビングのテーブルにお茶を出されて、彼と向かい合わせになるように着席した。

一人尖らせていた唇に、ちゅっと軽くキスをされる。




「今日はやけに不機嫌だったな」


『……』


「俺…何かしたか…?」




苦く笑ってみせた彼は、少し困ったような顔でそう聞いてくる。
自分が知らないうちに何かまずいことをしてしまったと思っているらしい。

…確かに、原因は貴方だけれども。
でも、本人にはどうしようもないことだし。




『兄さまの人気に嫉妬してるだけですー』


「…嫉妬?」


『兄さまが大人気なのなんて、今更始まったことでもないのにね……』




ちょっとだけ、短めに溜息。
彼が故意になろうと思ってなっているわけではない。顔が整ってるのは最初からだし、ずば抜けた実力や高い学力は彼が努力で手に入れたもの。無論、そこに“他人からの目”は1ミリも考慮されていない。
分かっている。…分かっていた。


ふ、と兄さまが笑う。「可愛いな」、なんて嬉しそうに。
親しい人間にしか見せない笑顔。恋人にしか言わない言葉。さっきまで不機嫌だったことなんて一瞬で忘れかけて、それを自覚してまた悔しくなる。
ほんと、どこまでもずるい。




『…あと10回キスしてくれたら許してあげる』


「いくらでもしてやるさ」




ガタリと席を立った彼に手を引かれ、ソファへと誘導される。
先に座った彼の膝の上に座らされて、腰からぐっと引き寄せられた。


――もっとちゃんと、
嫉妬する必要もないって思えるくらいに、分からせて。









(心配するな、)
(俺が惚れたのはお前だ)





END.