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人は絶望することを、崖から落ちるようだと表現することがある。

そう、例えるなら。今はそういう状況に限りなく近い。




『わたしね、好きな人ができたんだけど……』




しかもそれが何の前触れもなく突然に起こるのだから、もう最悪としか言いようがない。




「は、はあ?」


『だから、好きな人が出来たって言ってるの!』




昔からの顔なじみ。幼馴染という特権を利用して、いつだって傍にいた。
家も近かったし、アカデミーの行き帰りは一緒になることが大半だった。そんな日常が崩れたのは卒業して忍びになって、お互いが違う班に配属されてから。

今までも何度かこいつの相談は受けたことはあった。手裏剣術が上手くいかないとか、友達と喧嘩したとか。一方的に架音が話してることも多々あったけど、女は話をするのが好きなことくらい知ってたし、何よりこいつが楽しそうでオレも楽しかったから。


任務をこなすようになってからは会うこと自体減ったから、久しぶりに会えると少し浮かれてやって来たその結果がこれだ。




『だからー、そのー…ね、キバの目線からでいいから、可愛い女の子ってどんなかなって……』


「し、知るか!だいたい何でオレなんだよ!?恋愛相談ならいのにでもすりゃいいだろが!」


『それはもうしたの、男の人の意見が聞きたいの!こんなの頼めるの思い当たるのはキバくらいだし…』




語尾をゴニョゴニョ誤魔化して目を泳がせる架音に妙に納得。確かに恋愛相談なんて簡単にはできないだろうし、異性の意見を聞きたいとなると同性よりも難しいだろう。オレならうってつけ、ってことだ。
ある意味信頼されている証拠なのだろうが、こんなものならむしろ要らない。しかし真剣そうなこいつを目の前に、相談を放棄するわけにもいかず。

架音にわからないように一人、心の中で溜息をついた。
好きな奴からの恋愛相談。「最悪」以外にどう表現すればいい。




「可愛いって言われてもよ…そんなの人によって好みってのがあるだろーが。
オレが可愛いって言ってもそいつからしたら可愛いかわからねーだろ?」


『そうだけど、もしかしたら一致するかもしれないじゃない!
セオリーでいいの、可愛い子ってどんな子?』




いつになくキラキラしてるように見える架音。なるほど、これが恋する乙女ってやつか。
まさか「お前みたいなの」と言える訳もなく。




「あー…っと……。とりあえず優しけりゃいいんじゃね?」


『………雑』


「雑ってお前!
あとはー…女の子らしく?してりゃあいいんじゃねーの?」


『……雑』


「知るか!オレはそういうの向いてねーの知ってるだろが!」


『うん、知ってた。でもなんとなくわかった!』




ありがとう!とキラキラしたまま手を振って背を向ける架音。
その笑顔に思わず固まり、何もできずにいる自分への悔しさと不甲斐なさに今度こそ大きなため息をついた。






れた弱み






END.