3
「またかよ…」
再び一週間が経った。見覚えのある小さな鳥が持ってきたのは架音からの手紙。
この前と同じ場所で、この前と同じ時間に、この前と同じように。
また相談があるから来て欲しいと、要件が簡潔に書かれていた。
「(仕方ねえな)」
歯を磨いて、髪と服を整えて。
この前と同じように、家を出た。
――
『キバ!』
今回は彼女の方が先に来ていたようで、こちらに手を振っていた架音と予定通り合流した。
待ち合わせてた時間の、5分前。
「お前……それ」
『どう?』
くるり、目の前で回ってみせる彼女。
先週選んでやった白のワンピース。こうなったらヤケだと、こいつに一番似合うと思ったその服はやはりよく似合っていた。
足元は見慣れないヒールの高い靴で、胸元には花のついたネックレス。
ああそうか、と。
なんとなく想像がついた。
「今から行くのか」
『うん、そう』
にこりと笑う彼女はまるで、いつも隣にいたそいつじゃないみたいで。
格好のせいかもしれないけど、子供っぽさが抜けて大人っぽさが増して。
ゆるく弧を描いた口元にどきりと胸が鳴った。
『だから、応援しててね』
ふ、と架音が綺麗に笑う。
いつからかこいつを好きになっていたオレはもうそれなりの年齢で、その意味がわからないほど、鈍感でもない。
「…まあ、頑張れ、よ」
若干上ずった声には、これっぽっちも心がこもっていない。
どの口が頑張れなんて言うのだろう。
こいつが他の奴の隣に行くなんて、考えたくもないくせに。こいつが他の奴と幸せになることなんて、初めから望みもできない小さな男のくせに。
『頑張るよ』
それでも最後まで相談に乗ったのはきっと、惚れた弱みなんだろう。
ならば見送りくらい。ここまでしといて今更止めたら架音が困るだけ。
しばらく架音の顔を見るのが辛くなるかもしれないが、それもいつか時間が解決してくれる。
簡単だ。走り去る架音に、黙って手を振るだけ。
大丈夫。こいつなら絶対成功する。
「架音」
『キバ』
同時だった。今度こそ本心で「頑張ってこいよ」と続けようとしたのに、思わず口を閉じた。
こっちを見る架音の視線がやけに真っ直ぐで、なぜかそれに圧倒された自分がいた。
人は絶望することを、崖から落ちるようだと表現することがある。
その反対をどう表現するのかは知らないけど、例えるなら。今はそれに、限りなく近い。
『わたしとデート、してくれますか』
惚れた弱み 3
END.