Present is...






「ただいまー…あれ?どうしたの、それ」




ひとつずつ丁寧に箱を開けて中身を並べていけば、床はすぐにカラフルに染まった。
ハートのネックレスに可愛らしいメモ帳、香り付きリップクリームにその隣はチョコレート。女の子が喜びそうなものばかりの視界に私も例外なく心が躍る。

そしてたった今開けた箱から出てきたリボン付きのくまのマスコットを手に取ったところでドアが開いた。「おかえりミナト」と、帰宅するなり不思議そうな顔をして覗きこんでくる人物に視線を移す。




「たくさんあるね…どうしたの?」


『……貰ったの』




背中に大きく“四代目火影”と書かれた上着を脱ぎながら聞いてくるミナト、その様子にやっぱりねと思いつつマスコットに視線を戻す。目の前にぶら下がる可愛らしいくまへの気持ちと相反するように私の声は普段よりいくらか低かった。

私の口調と表情から嫌な予感を感じ始めたらしい彼に、ぼそりと止めを刺した。




『今日、……誕生日』




瞬間、ドサリと落ちたのは書類の入ったバッグだろうか。
ちらりと横を盗み見れば分かりやすく絶望の顔をする彼。




「……今日何日?」


『1月10日』


「えっ?架音の誕生日じゃん!」


『そうね』


「うそ!?もうそんな時間経ってた!?
ご、ごめん架音!誕生日おめでとうううっ!」


『わっ』




荷物を置き去りに抱きついてくる彼。
その不意打ちにマスコットを落としそうになりながらも、酷く焦り出した彼の頭を苦笑いしてから撫でた。




「ごめん!ほんとにごめん!
もうオレどうしたらいいか…どうしようどうしようどうしよう…!」




もはやパニック状態。ミナト落ち着いてと宥めてみるも無駄に終わった。それでも四代目火影かと、現在里のトップであるはずの彼に聞いてみれば今はそういうの関係ないのと返される。

忘れるのも無理はない。彼が火影という重大な役目を任されたのはついこの間。現にこうやって日付を忘れるくらい毎日が忙しくなり、それに比例して疲れていた筈。私の誕生日そのものを忘れていたわけではないのだ。




『気にしないでミナト。
そういえばケーキも貰ったの、後で食べましょ。上忍さんが気遣ってくれたみたい』


「それってオレが忘れてるの知ってて…!?
教えてくれればいいのに!誰!?」


『カカシくん』


「うわあああカカシー…!」




一人頭を抱える彼。
「お誕生日おめでとうございます」と、今朝わざわざホールケーキを届けてくれたカカシくんはミナトの元部下。
先生がこれだからなのか幼いながらもしっかりしている彼はこの里の上忍さん。

私の大好きなチョコレートケーキを用意してくれたのよと冷蔵庫の中にある好物を思い浮かべながら報告すれば、なぜかがしりとミナトに肩を掴まれた。




「架音!カカシに何かされなかった!?」


『されるわけないでしょうが。…そうね、“先生にいつもお世話になってます”って言われたわ』


「………」


『お世話になってるのはミナトの間違いよね』




普段の落ち着いた振る舞いの割に案外そそっかしい彼よりも、ずっと年下のカカシくんの方がクールで頼もしく見えるのはきっと気のせいではない。
「今度お礼言っておいてね」と、少し皮肉っぽく言えばミナトは押し黙った後がっかりしたように分かったと頷いた。


とりあえずご飯にしましょうかと微笑めば、入れ替わりでそういえばいつの間にか話題がすり替わっていたとはっとする彼。
落ち着いてる場合じゃないと身振り手振りを交えながらその焦り様を再度表現される。
「ふつう彼女の誕生日にプレゼント忘れて帰るバカがいるか」と言う彼に、ここいるじゃないと返せばミナトは半泣きで再び項垂れた。




「ほんと…オレがバカだから……。
ごめんね…怒ってるよね……」




さすがに可哀想になってきたのでこの辺でやめておこうか。
誕生日を忘れられて寂しかったのは事実だけど、悪気があったわけではないし仕方がない。

怒ってないからと軽く頭を叩けば、ようやく顔を上げた。




「…ごめんね。遅くなっちゃうけど……プレゼント、何がいい?」




好きなもの買ってあげると、苦く笑うその人に何が欲しいかと聞かれた。

きっと頼めば何でも買ってくれるだろう。
お高いブランド物のバッグでも、アクセサリーでも、洋服でも。
たとえ無理強いをしてもじゃあ今度の休みに買いに行こうかと、この人は笑ってくれるに違いない。




『ねえ』


「なに…………!」




でもきっと、私が望むのはそういうものではない。

名前を呼んで腕を掴んで引き寄せて、リップ音と共にストロベリーの香りが広がった。




『ほんとに気にしないで。
私、ミナトが祝ってくれたらそれで十分なの』




突然のことにぽかんとしてるミナトを視界に収めつつ唇をひと舐め。
鼻を掠めた甘い香りにプレゼントのリップクリームを試し塗りしたのを思い出した。




「じゃあ一緒にケーキ食べようか。次は絶対オレが買ってくるから…。
誕生日おめでとう架音。愛してるよ」


『……ありがと』




もう一度唇に感じた温度に寂しさが弾け飛ぶ。

握ったままのマスコットに書いてあった“恋愛運アップ”の文字列に、初めて自分からしたキスはそういうことだったのかと一人納得した。







Present is...

(うう…ケーキおいしいけど悔しい……)
(なんて顔しながら食べてるのよ……)




END.




オマケ


「カカシ…ケーキは感謝するけど、そういうのはオレに直接言ってよ……。」

「先生が忘れるのがいけないんでしょう、彼女さんの誕生日忘れるなんて普通ないですよ」

「わ、忘れてたわけじゃなくて、気付いたら当日だったの!」

「でも実際忘れたのと変わらなかったでしょう」

「ぐ……」

「そんなんだと架音さんオレが貰っちゃいますからね……泣かせたりしたら許しませんよ」

「泣かせないし渡さないからね!!」


オマケEND.