恋する一秒前。

 



「今回の任務は里に向かっている敵の処分だ」




静かで暗い森の中、一人の男の声が響く。
暗部の隊長、うちはイタチ。

動物を模した面の奥で深い紅が揺れる。




「いくつかに分かれて向かっているらしい、オレ達も個人で分かれて応戦する」


『「ハイ」』


「場所は地図の通りだ。敵はそれぞれ10人前後、かなりの実力者揃いだと聞いている。前に応戦した暗部はやられたらしい。気を抜くな」


『「ハイ」』


「片付け次第一番近い仲間の所に増援に向かうように。――散!」




合図とともに、各自持ち場へと向かった。



──



『(東へちょうど1キロ…)』




仲間と別れ、一人地図に記してあった通りの場所へ向かう。


暗部に入って早一年。私はずっとこの班で行動している。
隊長のイタチ先輩は憧れの人だ。

うちは一族出身で、写輪眼の扱いはもちろん火遁や幻術にも長けている。
誰もが認めるエリート中のエリート。
そんな人と一緒に行動出来るのはかなり幸運だし、いろいろと教われたりもする。

基本的に無口であまり表情を変えないが、実際話してみると思った以上に優しい人で、プライベートで個人的に修行に付き合って貰ったりもした。
修行はもちろん勉強になるのだけど、その一方で先輩の素性が知れて楽しかったりもする。
甘いものが大好きなんて私以外にどのくらいの人が知っているのだろう。




『(この辺りね)』




目的地まで100メートルを切った。
そろそろ敵と遭遇してもおかしくはないと愛用している刀に手をかけた瞬間。

――ギィン、
突如飛んできたクナイを刀で弾きながら、目の前に現れた敵に応戦した。



──



『……ハァ、』




手頃な木の上で気配を消しつつ休む。
あと9人──なぜか応戦した敵の数は聞いていたよりも多かった。
任務前に確認した里の忍であるし、敵としては間違いないのだけども。

ざっと数えた敵は全部で24人。
多少の前後は予測していたがまさかこんなに多いなんて。
しかも聞いていた通り全員がなかなかの実力者、人数的に分が悪すぎる。




『(少しマズいかもしれない……)』




今まで任務を受けてきてそんなことを思ったのは今回が初めてだった。

じわじわ痛みを増してきた肩を押さえる。先程喰らったクナイの傷痕が思ったより深かったらしく、服が割と速いスピードで赤く染まっていく。このままではまずい。




『(そのうち誰かが来てくれる、それまでなんとか…)』


「見付けたぞ!そこか!」


『!』




不意に下から声がして視線を投げる。どうやら居場所がバレたらしい、感知タイプでも混じっていたのか。

木を蹴り、クナイを投げながら空中戦へ。




『──あ、』




腕に上手く力が入らない。ぽろりと、いつも通り握ったはずの刀が手から離れて視線の先に消えていく。
血を流しすぎたらしいと自覚している間にも構わず敵のクナイは迫ってくる。

――避けきれない。
そう瞬時に判断して想像した未来に目を閉じた。




『…!』



――キィン、

予測した痛みの代わりに聞こえたのは甲高い金属音。
疑問に感じて目を開ければ、目の前に迫っていたクナイはいつの間にか視界から消えていた。
数秒後、聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。




『隊長!』


「一旦こっちに来い!」




どうやらクナイは隊長が手裏剣で弾いたらしい。
急ブレーキをかけ方向転換した彼を確認し、負傷した腕を庇いながら後を追った。



──



「…痛むか?」


『まあ……少し』




一旦退散して木の根元に腰掛ける。
暗部の面を取った隊長は私の傷を見て顔を歪めた。

彼の話によると敵の一部が他と合流していたらしい。
オレの所には来なかった、その分お前のところに流れていたと説明してくれた。
つまり人数が大幅に合わなかったのはそのせい。


医療忍術を使えるメンバーと合流するまでまだ少しあるからと包帯を巻いてくれた。




「オレのせいだ……済まない」


『隊長は悪くありません』




何度も謝り続ける彼に首を振る。これは単純に私の実力不足。
予想外とは言え、この人なら何の問題もなく勝っていただろうに。
同じ班に抜擢されたとは言ってもやはりこの人は強い。




「応急処置はしたが、後でまた診てもらおう。
あとはオレがやる、お前はここで休んでいろ」


『え?でも、』


「お前を怪我させたのは隊長のオレの責任だ。あとは任せてくれ」


『そんな…』




思わず否定の言葉が出るが、今私が戦った所で確実に足手纏いなだけ。
一緒に戦う隊長の迷惑になってしまうのは目に見えている。

「申し訳ないです」と痛む肩に手を置きながら自分の不甲斐なさを悔やんだ。




「もとはオレの任務だったんだ…お前が気にすることなんて何もないだろう」


『いえ…お役に立てなくてすみません……足手纏いにしかなってなくて』


「お前の実力はオレがよく知っている、お前は足手纏いなんかにはならないさ」


『……、ありがとうございます』


「それと、」




背を向けて立ち上がった彼が不意に振り返る。
途切れた言葉の続きを待っていれば、真っ直ぐな赤い瞳と目が合った。




「お前はオレに憧れているらしいが、オレはお前より強く在り続けたい。
オレがお前を守る」




カチャリ。面を付け直せばまた、その瞳は隠される。
じわりと、血の滲む肩ではないどこかが熱を帯びた気がした。









(きっと、気のせいではない)



END.