「チョコ作ってるの?」
『あ、おかえりマルス』
今日はバレンタイン。周りの女の子が騒ぐ中、私も例外なくチョコを作成中。
本当は前日までに用意しておきたかったのだけど、片付ける仕事が多すぎて間に合わず。
結局迎えた当日、朝早く起きて作る羽目になってしまって。
型にチョコを流し入れていれば部屋のドアが開いて、顔を覗かせたのは綺麗な青い髪の男の人。
「もちろん僕にだよね?」
『…そうよ』
「もう少し待っててね」と言えば様子を窺いにこちらまでやってくるその人。
紛れもなく、このチョコを贈ろうとしているご本人。
「美味しそうだね」
本来なら渡す時のドキドキ感を楽しむイベントなのだろうけれど、私たちくらいになるとただの恒例行事なので完成前を見られようが隠すつもりもない。
それを分かっているのか、すぐ隣まで来てすでに固まっているチョコを眺めるマルス。
ふ、と。
とあることを思いついて、唐突に彼の視線の先にあるそれを自分の口へと放り込む。
「……、食べちゃっていいの?」
『うん、味見』
甘ったるいチョコレートを舌の上で転がして、数秒。
ぐっと引き寄せた背の高い彼に口付けて、舌でその口へと送り込む。
『…させてあげる』
ちゅ。
軽いリップ音の後に離れれば、マルスは少しだけ驚いたような顔をしていた。
「……、甘い」
『そうね。甘めのミルクチョコレートだから』
「いつになく積極的だね、レン」
『ちょっとは驚いてくれたかしら』
「うん、驚いた」
『…嘘ばっかり』
「ほんとだよ?」
くすくす笑う彼は口ではそう言うが大して驚いた様子はない。
ほんの一瞬、目を瞬いたくらいで。
「残りの全部も口移しでくれたらいいんだけど」
『…バカじゃないの』
これからもたぶん、日々はチョコレートのように甘ったるい。
深く、甘く
END.