見かけにはよらないと人は言う

 




「ねえ、なんで君は僕をさん付けで呼ぶの?」




純粋に疑問だった。



先月、マスターが「一目惚れしたんだ」とか言いながら強引に勧誘及び誘拐してきた一人の少女。
その容姿は確かに可愛らしくて、例えるなら御伽話にでも出てきそうな。
しかしいざ戦ってみると、見かけによらず最初は男の自分でも押されたほど強かった。

あれから一ヶ月ほど経ち、だんだんとここにも慣れてきた彼女。
打ち解けているのは自分も例外ないはずだった、のになぜか気付けばここにいるファイターの中で自分だけが今でも敬語を使われ続けていた。




「なんでリンクとかロイは呼び捨てなのに、僕だけ“さん”付けなのさ」


『いえ、それはリンク達には呼び捨てで呼んでもらいたいと言われたので…。
それにマルスさんは王子様でしょう?』


「それならロイも似たようなものじゃないか、貴族なんだし。
第一、僕と同じような立場のゼルダとピーチは呼び捨てでしょ」


『そうですけど…。だ…駄目ですか?』


「うん」


『え゙……す、すみません』




慌てる彼女。その顔を見て少し、面白いかなと思う。
あまりいじめるとマスターに怒られそうだから、軽くからかう程度にしておこうか。




「次から僕にも敬語禁止。いいね?」


『はい、分かりまし……いや、うん、分かった』


「もし破ったら、」


『? はい』




――ちゅ、
彼女の左頬に、触れるだけの軽いキス。




「…こうね」


『は、…!?』




固まる彼女。思った通りの反応に口角を上げる。
落ち着いた雰囲気の彼女がこの一ヶ月では見せたことのなかったその顔に、なんとなく優越感を感じながら席を立った。




──




『マルスさん、マスターからお預かり物です』




パタパタと駆けてきたレンは手に持っていた袋を渡してきた。
あれから一週間、どうも態度を変えてくれない彼女。

さん付けも敬語も一向に直す様子がない。
敬語じゃなかったのはあのときの「うん、分かった」の一回きり。


頬に唇を寄せれば前と同じように固まる。からかわれるのが嫌なら敬語をやめればいいのに。




「ねえレン。そんなに僕と普通に喋るのが嫌?」


『嫌というか…やはりマルスさんには敬語の方がいいかと』


「僕が王子だから?言っておくけどね、この世界ではそういうのあんまり関係ないんだよ?」


『…マルスさんて、意外と鈍いですよね』


「…、ん?」




唐突に話題を変えたレン。
さすがに気づくと思ったんですけど、と彼女は目を細める。




『こういう手には弱いと思われてるんでしょう、私?
からかうのもいいですけど、ほどほどにしておいたらどうですか』


「…?」


『本気で好きになっちゃいますよ?』


「!」




「それでもいいならいいですけど」、なんて。
その見た目からは想像できないくらい色っぽく笑ってから、彼女は僕に背を向けた。









(もしかして、一枚上?)



END.