ずるいひと。
“好き”。
その二文字を伝えられたら、どんなに楽だろうか。
そう思いながら、今日も私はあなたを見つめる。
「やあリンク、休憩かい?」
「まあね」
リビングに“その人”を見つける。
大乱闘後なのだろう、少し息を切らせ水を飲むリンクにその人は声をかける。
「休んだら次は僕の相手をしてくれないか」と彼は言って、リンクは笑って「いいよ」と答えていた。
青い髪、青い瞳。服装も青を基調としている。
女の私よりもよっぽど美人であろうアリティアの王子“マルス”が、私の視線の先にいた。
その後もリンクと会話を続ける彼。
「フォックスはやっぱり強いよなあ」とか、「ソニックにスマッシュボールとられると厄介だよね」とか、そんないつもと変わらない、他愛のない話。
そんな会話でいいから、彼と話がしてみたかった。
でも私には遠くから見ているのが精一杯。少し離れたところから、時々その様子を窺うだけ。
ここでココアだけ淹れたら部屋に戻ろう。
そう思ってこっそりリビングに入ったそのとき、リンクがこちらに気づいて手を振ってきた。
「レン!こっち来いよ!」
『え、あ……う、うん』
リンクの声で、隣にいたマルスさんも私に気づいた。
一瞬目が合ってドキッとする。
――「チャンス」。
私の中で、もう一人の私の声がした。
「今マルスと大乱闘の予定立ててたんだ。
時間あるならレンも一緒にどうだ?」
『え、でも…二人の邪魔になったら悪いし、私そんなに強くないし…』
「レンは強いよ、オレだって結構負かされるし。なあマルス?」
「そうだね。新人さんとはいえ、やっぱりマスターが選んだだけあるよ。
でもレンがやりたくなかったら、無理しなくてもいいからね」
『あ……ありがとう…。
じゃあ、観戦させてもらってもいい…?』
「うん、もちろんいいよ」
にこり。綺麗に笑って答えてくれた彼に心臓が跳ねる。
一目惚れなんて、まさか自分がするとは思わなかった。
好き、なんて。この先も言うつもりはない。
言ってしまったらきっと、今の関係でさえも壊れてしまうから。
「……ねえ、レン」
『! は、はい』
「ちょっといいかな?
ごめんねリンク、少し席外すね。また戻ってくるから」
「ん?おう」
「わかった」と言うリンクを横目に、なぜかマルスさんに連れられて部屋を出る。
――どうしよう。
話、とはなんだろうか。何かまずいことでもしてしまっただろうか、でも私は普段この人とはほとんど喋らないし。
それとも今さっき気づかない間に失礼なことをしてしまったのだろうか。
暫く歩いた所でマルスさんは立ち止まって、後に続いていた私も立ち止まる。
ガチガチになっている私に、マルスさんが声をかけてくれた。
「別に変に緊張しないでよ、レン」
『ご、ごめんなさい…』
「まあ…緊張してるのは僕の方かもしれないけど」
『…え?』
よくわからない。何か、彼が緊張することでも。
首を傾げていればマルスさんはまた、綺麗に笑って。
「ねえ、レンって……僕のこと、好き?」
周りの気配を確認するように見渡した後、唐突に切り出された。
――体が動かない。
あまりにも突発的すぎて、一瞬で返す言葉どころか思考回路ごと失った。
「ごめんね、急に変なこと言い出して。
僕の勝手な思い違いだったらレンに悪いなって…自惚れてるみたいで申し訳ないんだけど」
少し苦笑いのような笑いを浮かべる彼。対して私は固まったまま。
何か言わなきゃいけないとは思うのだけど、上手く言葉が出てこなくて。口を動かしても、それは声にはならない。
開いた唇からすうすうと空気だけが漏れる。
「……やっぱり違うよね。ごめんね、忘れて」
『そ、そんなことないです!』
「え?」
『…あ、』
思わず出た言葉に口を押さえる。
しかしながら、予想に反してマルスさんは笑っていた。
「良かった」
『…へ?』
間の抜けた声が出た。
くすくす、彼の笑い声が少し上の方から聞こえる。
「それは恋愛の意味でいいのかな?」
『…い、いです』
「ふふ、そんなヤケになったみたいにならないで。
…ねえレン。好きでもない人にこんな確認取ったって、意味ないと思わない?」
『!』
「好きだよ。一目惚れさ」
はっきりと、いとも簡単に。
私がずっと言えなかった、言おうとしなかった、その二文字を。こんなに簡単に、余裕で言ってのける。
『…ずるいです』
「!」
『私だって、言いたかったのに』
「……そうかい」
もう一回だけ笑ったその人は、じゃあ言ってみなよとその唇に人差し指をあてて口角を上げた。
ずるいひと。
(そうやって貴方は、私の感覚を奪ってく)
END.