天然×鈍感+突然
「アイク様!
受け取って下さい!!」
「わっ…私のも下手ですけどどうぞ!」
「…? ありがとう」
『………』
今年もやって来ましたバレンタイン。
たった今、隣で首を傾げつつかわいい女の子からチョコを受け取っているのは鈍感と名高いアイク氏。
買い出しもといクレイジーのパシリという要件で街に繰り出したはいいものの。
増える増える。それはもう、ものすごいスピードで。
やたら肉ばかり入っていた買い物袋にガンガン追加されていくチョコレート。
『やっぱりアイクと来るのは間違いだったわ…。どうしてジャンケン負けるのよ……』
「仕方ないだろう」
クレイジーのパシリに付き合わされるのは副管理人の私と付き添いのファイター。
恒例の「誰が行くかジャンケン」に負けたのはアイクだった。しかも見事な一人負け。
力の強い彼は荷物持ちとして大いに役立ってくれるのでありがたいのだけど、この時期だけは別。持ってくれるのはいいとしても、余計なものばかりが増える。
『イケメンと歩くとロクなことがないわ……』
「…なあレン、帰ったら一緒にこの菓子食わないか。甘いもの好きだろ?」
『それを街中で言わないでくれる?』
人々の視線が痛い痛い。主に男性陣の羨ま視線が。
これだから自覚のないイケメンの天然と鈍感のコンボは困る。
「レンは俺にくれないのか?」
『こんなにもらっといてまだ欲しいの?この本命チョコの山で十分でしょう?』
「…違う、そうじゃなくて」
『じゃあ何?』
行き交う人の隙間を縫うように歩いていく。
これ以上荷物を増やしている場合ではない、すでに私の袋にも彼がもらったチョコレートが侵出してきてるし。いっぱいになるのも時間の問題だ。
後ろから追いかけて来ていたアイクがふと気付いたときには真横に並んでいて。
特に意味もなく見上げれば、どこか真剣な顔をした彼と目が合った。
「俺はレンからの本命が貰えれば、それでいい」
『……は?』
「だから、作ってくれ。帰ってからでもいいから。なんなら後で材料俺が買ってくるから」
『……』
街中で歩きながら、しかも真顔でよく言ってのける。
すれ違った人が振り向いてた気がするけどこの際気にしない。
チョコは作れても本命チョコは気持ちがないと作れないんだよと、天然で鈍感なこの人にそう教えようと思ったのに、なぜかそんな簡単なことすらできなくてただひたすらに視線だけ逸らした。
天然×鈍感+突然
その組み合わせってどうなの?
(なんだ。用意してたのか)
(してました。全員分)
(…なんだと、全部俺が食べる)
(無茶言わないでよ……)
END.
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