寝惚け眼





『アイク…』




ギィ、と音がして扉が開く。動かしていたペンを止め、ノートの上に寝かした。
声のした方を振り返れば予想通りの人物。

時計を見る。
時刻は午前二時を回っていた。




「どうしたんだ?こんな時間に」


『ちょっと寝れなくて……アイクはまだ寝ないの?』


「そろそろ寝ようと思ってたところだ」




机の証明のスイッチを切る。
椅子から立ち上がり、おずおずと部屋に入ってくるその人に手招きした。




「……来るか?」


『うん!』




呼べば、持参した枕とともに嬉しそうに彼女はこちらに向かってくる。

ベッドの奥側にレンがもぐりこんだのを視界の隅で確認。
部屋の証明を暗くして、自分もその横に寝転がった。


くっつくとまではいかないがかなりの至近距離。
そう、たまに。たまに彼女は「眠れない」と夜中に枕を持ってこの部屋にやって来る。いくら仲がいいとはいえ、警戒もしないレンには毎回呆れるしかない。




「夜中に男の部屋に一人で来る上、一緒に寝ようとはな……今始まったことじゃないが」


『アイクは何もしないでしょ?』


「…あのなレン……」




なんとなく馬鹿にされたような、挑発されたような気がして、思わず体を起こす。
レンが不思議そうにこちらを見てきた。

寝転がったままの彼女の肩の上に両手をつく形で四つん這いになる。
ギシ、とベッドが沈んだ。

さっきまで薄暗い明かりで照らされていた彼女の顔も、もう自分が落とす影でほとんど見えない。
この体格の差だ、押しのけようにも押しのけられないだろう。


数十センチ上から、真っ直ぐ彼女を見下ろした。




「これでもそんなこと言えるのか?
男だぞ、俺も」


『……アイクは、そんなことしない』


「…ハァ……。
無防備過ぎだ、アンタは」




傍から見れば押し倒されている状態にも関わらず、レンは表情を変えない。

溜息を吐いてからもともと寝ていた場所にゴロンと寝直す。ここまでしてこの調子ならばもう諦めるしかないだろう。
乱れた布団をレンにかけなおした。




「寒くないか?」


『寒い』


「…ほら、こっち来い」


『ん』


「他の奴にもこんななのか?」


『んーん』


「……そうか、ならいいが」


『アイクになら、』


「ん?」


『何されてもいいから、来たの』




呼べば無防備にすり寄ってくる彼女。
抱き締めれば再び溜息が出るような台詞。
寝惚けているのか、そうじゃないのか。


仕舞いには「ちゅうして」なんて言い出して、馬鹿かと溢しつつもその額に唇を押し付ける。




「ほら、寝ろ」


『唇がいい』


「……わざわざ遠慮したってのに」


『アイク』




寝惚け眼で首元にすり寄ってくる。
先程の様子を見るに誘っているわけじゃないらしいが、本当に無防備すぎて呆れる。
相手によっては襲われててもおかしくない。
自分も結構ギリギリだが。


顎を指で持ち上げ、ちゅっと軽く唇を重ねる。
離れるとまだ不満があるような顔をしていたので数回角度を変えて口付けた。




「…おやすみ、レン」


『おやすみ、アイク』




明日の君は、ちゃんと覚えていてくれるだろうか。









寝ている君の瞼に、


(好きという言葉の代わりに)





END.



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はて…。

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