HotHotHot!
「よくくっついてられるよね」
カップのアイスクリームを片手にこちらへ向かって来たのはマルス王子。いつも翻しているマントは今日は身につけておらず、いくらか身軽そうな格好。そのまま彼は私の座っていたソファーの空いたスペースに腰掛けた。
『私は暑いんだけど…』
目を細めてじとりと見てくるマルスに、私は溜息しか返せない。
5月。まだ夏と呼ぶには早いこの季節、しかしなぜだろう、ここ最近やけに暑い。
特に晴れた日の昼間は気温がかなり高くなって、周りのファイター達もよく休憩所でうなだれている。
本日の天気は雲ひとつない快晴。もちろん気温は高め。私も例外なく動く元気がない、大乱闘なんてもってのほか。
こんな日はだらだらと過ごすに限る。そう思って誰もいないソファーに腰掛けた、その時だった。
どこからかふらっと現れたアイクが隣に座ったと思ったら、寄っ掛かってきて離れない。
しかもそのまま目を閉じて眠り始める始末。
一人でも暑いのに、よりによってこんな大柄の男にくっつかれて暑くない訳がない。
「暑いならどかせばいいのに」
『私が力で敵う訳ないでしょ』
「……酷いな」
「なんだ、起きてたの」
不意に隣から聞こえてきた声に目線だけでアイクを見る。どうやら起きていたらしい。
声をかけつつもフタを開けてアイスを頬張るマルスはアイクにはあまり興味はなさそう。
――あ、バニラアイス。
マルスが頬張っているそれのパッケージを見てみれば少しお高いところの美味しいバニラアイス。ここのところお目にかかってもいない贅沢品。私も食べたい。
「……おいレン、マルスばっかり見るな」
『!』
「バカだねアイク、レンは僕じゃなくてアイス見てるの。
無駄に妬かないでよ。僕が悪いみたいじゃないか」
今度は私じゃなくてマルスが溜息を吐く番。
対するアイクは話しかけた割には寝惚けているのかぼうっとしてるだけ。それに呆れたのか、マルスがまた軽く溜息。
「レン……手のかかる彼氏作ったね」
『まあね。ごめんね、気にしないで』
「アイクのヤキモチ焼きなんか今更気にしないさ」
既に溶けかけているアイスを口に運ぶマルス。
アイクは相変わらず、離れる様子がない。
「…最初に戻って悪いけど、よくくっついてられるね」
『だから私は暑いんだってば』
「……離れた方がいいか?」
繰り返された言葉に、ここにきてようやくごそごそと動き始めた彼。
まだ寝ぼけているようだがゆっくりと体を起こし始める。アイクの体が垂直に近付くにつれて、だんだんと軽くなっていく肩。離れていく熱。
そしてそれは無意識の、本当に無意識のうちだった。
もたれかかられている側のアイクの服を、私の指はくいっと軽く引っ張って手繰り寄せた。
再び隣で動かなくなるアイクの気配。
そんなわずかなことにも気付いたらしいマルスが「相変わらずおアツいねえ」なんておどけてみせる。
半分呆れているようにも聞こえるその言葉に温度が上がった気がするのはきっと気のせい。
「悪いがマルス、多分これからもこんな調子だ」
「全くだよ。真夏にやられたらたまったもんじゃないよ。
イチャつくなら部屋行ってよね、余計室温上がる。アイスが溶ける」
「…レンが休憩所のソファーに座るのが悪い」
『なにそれ私のせい?』
「……」
『……アイクさーん』
「駄目だね、アイクまだ完全に起きてない」
『…そうみたいね。マルス、私にもアイスちょうだい』
現実と夢の世界を行き来しているアイクを横目に、立ち上がれない私はマルスにアイスを頼む。
快諾してくれた彼は自分の分をテーブルに置くと冷蔵庫へと向かっていく。
「はい。君達の熱で溶かさないようにね」
『……溶けるかもね』
「レン、俺にもくれ」
『…寝てるのか起きてるのかはっきりして』
「今起きた」
藍色の髪の毛が首元で揺れる。
アイスを舌で転がしていれば、目線の先には口を開けて待っているらしい彼。
カップからアイスを一口スプーンに乗せてその中へ放り込む。
「あーあっついなー、なんでこんなに暑いんだろー?」
『……』
「なんてね、邪魔者は退散するよ。それじゃ」
空のカップを手に立ち上がるマルス。
「好きなだけラブラブすればー」なんて、また、呆れたように。
頬の熱を紛らわせるようにアイスクリームを頬張れば、それはもう半分くらいどろりと液状化していて。
「レン」
『なに?』
「今年も暑くなりそうだな」
『…ばーか』
本当の夏が来るのは、もう少し先のお話。
HotHotHot!
(暑い、熱い、アツい)
(見事に全部溶けたな)
(大体アイクのせい)
END.
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