I want you.

 






『ねえマスター、わたし、新しい香水が欲しいわ』


「…香水?どんなのがお好みかな」


『マスターの好みに合わせるわ』


「そうかい?」




じゃあ、と言って私は手のひらに小さい小瓶を出現させる
中身はもちろん香水
香りは私の好みでいいと言うので花の香りのを出した

そう、私は創造主




『ありがと』


「ああ、いつでも言ってくれたまえ」




小瓶を渡せば君は嬉しそうにしていた
君が喜んでくれるのなら、私も嬉しい
このくらいお手の物だ

“この世界”を創った私なら、
君が望むものをなんでも出せる
君が望むことをなんでも叶えられる

それは自分の望むものがなんでも手に入るのと等しい




『ねえ、マスター』


「なんだい?」




他にもなにか欲しいものがあるのかい、と私は彼女に微笑む
可愛い服が欲しければいくらでも用意するし、お城に住んでみたいというなら君に大きな城をプレゼントしよう

ただ、この能力にもひとつだけ条件がある
それは欲しいものが“物体”であること
このことは彼女も知っている


例えば“人間”は物体だが、“心”は物体ではない
ある人間が欲しいと言っても、その“心”までは手に入らない

仮に自分の望む人間を傍に出現させたとしても、心は手に入らないのだ
最初はそれでもいいと思うかもしれないが、じきに意味のないことだと気付くであろう


形だけ傍にいて、きっと心は何処か遠い場所にあるのだろうから




『わたしね、他にも欲しいものがあるの』


「そうなのかい?言ってごらん」




そして今、私はその条件にいらついている
何故って、目の前にいる彼女が手に入らないからだ


今私の傍には君がいる、このことに変わりはない
だが、君の“心”は私にはわからない
いくら創造主とは言っても他人の心まではわからない
手に入っているのかどうかすらわからない、のだ


ある力によって何かを手に入れたのなら、それを“手に入れた”のだと確信が持てる
だが私には彼女の心を手に入れる力がない故に、確信が持てない
持てるはずがない
彼女が直接それを表現してくれるまでわからないのだ


だから私は、せめて嫌われないようにと君が望む“もの”を出す
それが香水であっても、食べ物であっても、関係ない
君がそれだけのために私の傍にいてくれるのでも構わない、君の意思でいてほしいから




『でも、今回はきっと難しいわ』


「…何故?」


『だってマスター、貴方でもきっと無理だと言うわ』


「私が無理なものは君も知っているだろう?」


『ええ、今回はそれなの』


「…そうか」




君が望んでいるもの、それは“誰か”
君の望みは叶えたいが、今の私には無理そうだ

それに叶えられたとしても私はわざと叶えないかもしれない
叶えられるのなら、とっくに君を私のものにしてるだろうから




『ねえ、マスター』


「なんだい?」


『わたし、マスターが欲しいわ』


「…ああ、」




その望みなら、今の私にも叶えられそうだ







I want you.
(ずっと君が欲しかったんだ)




END.