この関係、終わりにしませんか
『ねえグリーン』
「ん?」
『私どっかで見かけたことがあるんだけどね、男女の友達は長く続かないんだって』
「……なんで?」
『よく分かんないけど、“レンアイ”っていうのが邪魔するみたい』
「友達じゃなくなるってことか?」
『多分』
「そんなことないよな、レンとオレはずっと友達だろ?
レンアイ…ってのはよくわかんないけど、それ嘘だって、絶対」
『うん、そうだよね!
グリーンと私はずっと友達だよね!』
「おう、約束!」
『…うん!』
―――
「わりぃレン、ちょっと宿題やってもいいか?
この量だと少しやっておかないと終わりそうにねえから…すぐ終わらせる」
『いいよー、じゃあベッド借りる』
「んー」
ガサゴソとカバンをあさり、教科書と下のほうに埋もれた筆箱を取り出す。
椅子に座り、ノートと教科書を開く。
少し苦手気味の国語。
ずらずらと続く文字の羅列にくらっときた。
オレの部屋。
机とさほど距離のないベッドにレンが寝転がる。
オレはまだ帰って来たばっかで制服だったが、レンは着替えてから家に来た。
今日は部活がなかったらしい。
レンとは昔からよく一緒に遊んでいた。
それは中学生になった今も変わらないみたいで、よく家に来る。
前は毎日のように遊んで一緒に学校に行って一緒に帰ってたけど、年齢が上になるにつれてそんなことはできなくなってきた。
お互い部活も違うし、忙しくもなった。
周りからの視線だって、いつも通りオレたちが会話してるだけでも妙に強く感じる。
今こうして一緒にいるっていうのを周りに知られたら、それこそなんて言われるか。
変な勘違いされて噂でも広まったりしたら…レンとこうしていられないんじゃないかって、最近怖く感じるようになった。
オレとレンは、友達。
そう、昔から変わらない、親友。幼馴染。
仲がいいから一緒にいたい。だって楽しいから。
別にそれ以上のことなんてない。
「(くっそ、思ったより時間かかりそうだな…)」
宿題の問題を見ながら、ちらっとレンの様子を伺う。
オレに迷惑にならないように、イヤホンをつけた状態で携帯ゲーム機をいじっていた。
視線を元に戻し、分かりそうなところから解き始める。
レンがオレの家に来ることに目的なんて特にないと思う。
これまでずっとこうだったから、年を重ねてもさほど違和感は感じなかった。
放課後家に来て、なんとなく一緒に話をしながら夕飯の時間まで過ごして帰っていく。
いつもと一緒。昔から変わらない、オレの日常。
苦手な科目なだけあって多少てこずる。
問題文を読んでは文章を読み直し、を繰り返していた。
少しくらい間違っててもいいだろうととりあえずシャーペンを走らせる。
「よし、終わった……」
ノートに散らばった消しゴムのカスを手ではらい、教科書を閉じて机の隅に置く。
疲れた右手をぶらぶらさせながら、レン、と言いかけて止まった。
視界に入ったレンは、オレのベッドの上で小さく丸まっていた。
時計を見ると、すぐ終わらせるといってからいつの間にか一時間が経過していた。
どうやらその間に寝てしまったらしい。
「……」
しばらくレンを見つめた後に椅子から立ち上がり、ベッドの空いている場所に座る。
部屋が暖かいからか、掛け布団の上で寝ていた。
「……レン」
学校で見慣れている制服と違う、私服のレン。
柔らかい素材のシャツに、フリルのついたスカート。
オレの家に来るだけっていうのに、ネックレスも指輪もして、化粧も少しだけしていた。
年頃の女の子だから当たり前なのか分からないけど、オレが見る限りそのまんまデートにでも行けそうな服装。
オレが考えすぎてるのか、それとも今の女子はみんなこうなのか。
…いつからだろう、
何も変わらないはずの日常に、何かを感じるようになったのは。
変わったことと言えば、二人とも確かに成長していることか。
あんまり変わらなかった身長も、今ではだいぶオレのほうが高い。
体つきだって昔と比べれば明らかに違う。
レンはどうなのか知らないけど、オレは中身も昔とは違う。
『……ん…』
ごろん、とレンが寝返りを打つ。
寝転がっているせいで、スカートから脚が余計に見える。
昔はこんなの意識した事なかったのに、つい視線をばっと逸らした。
今までも家に来てたけど、眠ったのは今回が初めて。
仮にも男と二人きりなのにベッドで寝るなんて…無防備にもほどがある。
誘ってるのか、と馬鹿みたいな考えが浮かんでは消えた。
そうとれる一方、自分を男だと見られていないともとれるじゃないか。
多分後者だなと思って少しがっかりした。
何でがっかりしたのかなんて、昔は分からなかったかもしれないけど。
暫く見ているが起きる気配がない。
ごくり、と息を呑んだ。
おそるおそる、体勢を変えながら近づく。
ひざ立ちの状態から、レンの顔の横に両手をつく。
レンが目を覚ます事態はもちろん、部屋に誰かが入ってくるのもかなりまずい状況。
はたから見れば、押し倒してるともいえる体勢。
距離が思った以上に近くて、自分から動いたのに顔が熱くなった。
「(う、わ)」
オレ何してるんだろ。
そうは思っているけど。
化粧品に詳しくはないけど、何か塗っているのか唇は艶やかで。
頬はほんのりピンク色で。
睫は長くて。
オレの枕に散らばった髪はすごく綺麗で。
ふわっと香る女の子らしい甘い香りに、酔いそうになった。
『……ん、
…グリー、ン……?』
「!!?!」
見とれていたせいで反応が遅れた。
ゆっくりと目を開けるレン、驚いて勢いよく起き上がるオレ。
そのまんま後ろに尻餅をつくように逃げる。
やばいやばいやばい。
なんて言い訳をすれば。
『グリーン……?』
「あ、あああの…その……」
『…ん……?
宿題、終わった…?』
「え!?あ、ああ!」
『そっか…』
寝起きのせいかぼんやりしているレン。
そういえば宿題のせいで待たせてたなんて、今更ながら思い出す。
とりあえずオレが目の前にいたことについては突っ込まれなかったので安心した。
レンが体を起こす。
何を話していいか分からず、黙ったままレンを見る。
ぺたんと座っている状態で、身長差により見上げられる。
この角度、この距離。やばい。
また顔が熱くなって、思わず顔を背けた。
視界がレンから壁になり、尚も話しかけられるのを待つ。
しかしなかなか話しかけてこないので、視線をレンに戻そうとした。
そうしたら、
首に腕を回されて、擦り寄るように抱きつかれた。
「!!?」
おさまり始めた顔の熱が一気にぶり返す。
寝惚けているのか、と思ったけど。
ようやく聞こえたレンの言葉で、そうじゃないんだと分かった。
『グリーン、…さっき、何しようとしたの……』
「……っ、…!」
ばれてる。
「あ、ああの…えっと……レン…」
『……、なあに』
「あの、その、…ごめん、えっと、」
『どもりすぎ』
「だだだだってその……!
いま、」
『今?』
「ち、ちかい……っ」
尚も離れないレン。
こんなことするの初めてで、昔は手繋いでたりしたけど今と昔じゃいろいろと違うわけで。
ましてや抱き合ってるなんて、頭で理解すればするほど心臓が壊れそうになる。
近いどころじゃない、ゼロ距離だ。
それでも押し返すなんてできなくて、ただひたすらあたふたする。
そのままの状態で数分後、状況が変わりそうになかったので、思い切って恐る恐る腕をレンの背中に回した。
オレより一回り小さくて、柔らかくて、
頭はまだ混乱してるけど、離したくなかった。
肩に顔を埋められて、幸せだなって感じて、改めて自分の気持ちに気付く。
変わらないはずの日常に感じてた違いが何だったのかなんて、きっとオレは結構前から気付いてた。
「レン、」
『…やっぱり、ほんとだったんだね』
「…、え……?」
『レンアイが、邪魔する……』
「……え、」
やっぱり、友達なんて無理らしい。
「…なあ、レン」
『ん、』
この関係、終わりにしませんか
(友達じゃ、足りない)
END.
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超突発的ですヒィイ…
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