桜色の君







「やあグリーン」


「…!」




視界いっぱいのピンク色が紫に変わる。
一人缶ジュースを飲むオレに声をかけてきたのは、自分と同じようにジムリーダーをしているマツバ。
紫はマツバのマフラーの色。

春、お花見と称したジムリーダーと関係者の集まり。
予定が空く人ができるだけ集まって騒ぐイベントみたいなもの。
今年も例外なく行われ、オレもマツバも予定を空けてきたというわけだ。


マツバとは地方が違うけどジムリーダー同士知り合いだ。
自分とはタイプが少し違うので話しかけられる事は珍しいかもしれない。
別に仲が悪いわけではないので、普通に対応する。




「おーマツバ、久しぶりだな!」


「ああ、久しぶりだね。
…あれ、彼女と一緒じゃなかったかい?」


「一応一緒だけど?
ほら、あそこ」


「…ああ、あっちにいたのか」




彼女、とはオレの彼女の事だ。
少し遠い場所を指差すと、納得したようにマツバが頷いた。

彼女ことレンは、桜の木の下で女性ジムリーダーに囲まれて楽しそうだ。
女同士、話も合うのだろう。
中には見かけない人も混じっているみたいだが、ファンか何かだろうか。


ジムリーダーにファンはいるものだ、オレ達のいる場所の周りにたくさんの客が集まっている。
もちろん一般客もいるだろうが。
オレのファンもいるのかな、なんて呑気に考えた。
マツバのファンもたくさんいるだろう。




「…いいのかい、こっちに呼ばなくて」


「いいよ別に、向こうは向こうで楽しそうだし?」


「ふうん……まあ否定はできないね。
レンちゃんかわいいから、変な奴にさらわれないようにしておきなよ」


「大丈夫だろー、別に」


「楽観的だね、レンちゃん狙ってる人多いんだから」


「……知ってる」




隣に座り込むマツバ、適当に返すオレ。
オレが一人で暇そうにしてるから声をかけてくれたんだろうか。

花見なんて正直あんまり興味なかったけど、レンが行きたいっていうから予定を空けた。
マツバと話しながら、だんだん今オレ何しに来てんだろ、なんて考えが浮かぶ。
レンが来たいんなら一人で行かせても良かったのに。
オレは仕事が忙しいのは事実だし、無理やり来る必要もない。
今の状況からして、別にオレ必要なかったんじゃないか。


久しぶりにナーバス、美しく咲き誇る桜が余計にそうさせる。
綺麗過ぎてオレには届かない。
はあ、とマツバにわからないようにため息をついた。
そんなオレを知ってか知らずか、マツバは会話を進める。




「じゃあちゃんと見守ってなきゃだめだろ?」


「別に大丈夫だって」


「…僕が貰っちゃうよ?」


「はあ!?」




飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。
いきなり何言い出すんだよ、と言い返した。
会話中もぼーっとしてたからか、マツバの顔を今日ここに来てまともに見た気がする。




「僕も一応レンちゃん狙ってたんだからね、君と付き合ってるって聞くまでは」


「え、そうだったのか?」


「そ。
可愛いでしょ、あの子」




尚も笑うマツバ。
こいつもレン狙ってるのか。
なんとなく意外だった、見た目だけで判断するのは悪いけど、恋愛とかあまり興味なさそうだったから。


動じちゃだめだ、オレ、乗せられてる。
わざと素っ気なく、興味がなさそうなふりをして返事をする。




「そりゃあ……可愛いかもしれねえけど、結構わがままだぜ?」


「そうなの?
意外だね、そうは見えないけど」


「ほんとほんと、見た目通りなのは最初だけだって。
よく振り回されるぜ」




ふー、と息を吐き出す。
何度あいつに買い物だの遊園地だので振り回されたことか。


…今思えば、なんで付き合ってるんだろ。
オレもモテないことはないし、チャンピオンも一時やってたからファンだって多い。
告白され回数だって結構あるほうだと思っている。
実際付き合ったのはレンが初めてだけど。



去年のバレンタイン、レンがオレにチョコをくれたのが始まり。
レンのことは名前だけ知っていた、各地のジムリーダーを結構なスピードで倒してる可愛い子がいるって。
そのうちオレの所にも来るだろうと待っていたら、予想通り数ヵ月後に来た。
噂どおりポケモンはかなり育ててるみたいで、ジムリーダーだから本気の本気ではなかったけど、一回目にしてバッジを渡すことになった。
この辺りでは一番強いジムリーダーだったオレ。これには少し驚いた。
大体の人は一回目では勝たせてやらないから。


バッジを渡して少ししてやってきたバレンタイン、
朝っぱらからチョコを貰いつつジムでのんびりしてたらレンが来た。
本命チョコだったのかは未だにわからない。
そういえば聞きそびれたままだったっけ。

ジムの挑戦のときはあんまりよく見てなかったけど、噂になるのが納得できる可愛い子だった。
その時はハヤトやらツクシやらが惚れていたと聞いていた。
背は小さめ、小柄で目が大きくて大人しめ。これが第一印象。

ホワイトデーにチョコを返しに行ったときに付き合ってくれないかと誘った。
オレも若いし、ただ単に彼女が欲しかったというのがあった。
人気のある子だったし、自慢になるとも思った。
今考えるとなかなか最低な理由だ。



残りのジュースを飲み干す。
オレにとっては適当に始まった関係だけど、なんだかんだで一年以上が過ぎたな。
こうやって桜見るのも二回目か。


そう考えたところで、気が付いた。




「(…あー、違うわ)」




オレが惚れたんだった。

付き合い始めて少ししてから、オレがレンに惚れたんだった。



買い物に行くたびに彼女に物を買ってやってるのはどこの誰だ。
遊園地に行きたいという彼女のために、無理やり予定を空けようと深夜まで仕事をしてるのはどこのどいつだ。
デートをするためだけにジムを抜けてるのは、紛れもない自分だろうが。


今回の花見だって、二日分の仕事を一日でやって来たんだった。
…あー、オレ、ばかだ。




「あの、グリーンさん!」


「!」


「ご一緒させていただいてもいいですか?」




騒ぎに紛れて話しかけてきたのは数人の女子。
オレは見た目があれなのか、やたらこういうタイプが好みだと思われるんだけど…そこまで好きじゃない、むしろ苦手。
キャピキャピしてて煩いタイプの女子。

オレのファンなんだろうし、断るのも悪いからとりあえず了承すれば、遠慮無しにべったべたしてくる。
だから嫌なんだ、オレはそこまで許可した覚えはない。
しかもオレに彼女がいるのを知っててやってくるものだから、余計にタチが悪い。
彼女作ればこういうのもなくなるかと一年前は思ってたけど、そうでもないらしい。

マツバが「モテモテだねー」なんて笑ってる。ばかやろう、見てないで助けろよ。




「今日は彼女さんご一緒じゃないんですねー?」


「いや、向こうにいる」


「そうなんですかあ?喧嘩でもしたんですかー?」


「そんなんじゃねえよ…」




あーもう煩い。
今日は珍しくテンション高くないんだから放っておいてくれ。


…にしても、喧嘩してるように見えんのかな。
別に実際そんな訳ないんだけど、周りからはそう見えるのか。

ちらっとレンを見る、相変わらず楽しそうでオレなんかいてもいなくても変わらないみたい。
やめろ、これ以上テンションを下げさせないでくれ。オレらしくもない。
もう完全にふて腐れていた。




「(オレ帰ってもわからないんじゃね、これ…)」


「グリーンさん、私お弁当作ってきたんですよ、一緒に食べましょうよ!」


「わりぃ、オレさっき食ったから……」




適当に断って会話を終わらせる。
さっき食べたなんて嘘だ、レンが朝お弁当作ってくれてたの知ってたから断った。

逃げ道を探すようにもう一度レンを見る。
レンが来てくれれば状況が変わると思ったから。


レンはいつの間にか現れたダイゴに絡まれていた。
今日初めて見たから、オレがこの女子に絡まれている間に来たんだろうか。
あの人、ホウエン地方の元チャンピオンだ。
今はミクリに譲っているらしいけど。

酔ったふりして絡んでるけど、オレはあの人が酒に強いのは知ってる。というかもう酒飲んでるのか。
しばらく様子を見ていたが……おいちょっと、近すぎないか。
そういえばあの人もレン狙いだったっけ。
肩に腕回してんじゃねえよ。




「…あのやろー……」


「ちょっと、グリーンさん!?」




取り巻きを振り払い、立ち上がってそっちに歩いていく。
女子達に呼ばれた気がするけど、それどころじゃない。




「あのー、すみませんけど」


「!」




オレがいないからって調子に乗りやがって。
年齢が上とか関係ない、許せないものは許せないし、オレだって元チャンピオンだ。立場的には対等なはずだ。
ダイゴの腕を振り払ってレンを引っ張って抱き寄せる。


見せ付けるようにキスしてやれば、周りから歓声だのブーイングだのが聞こえた。




「こいつ、オレの彼女なんで」


『…!』




はっきり言ってやれば、観念したようにダイゴが引き下がった。
やっぱり酔ったふりしてやがったか。




「レンも嫌なら突き飛ばせよなー」


『無理だよそんなの、大先輩じゃない』


「お前もチャンピオン負かした経験あるだろ。
てかそういう問題じゃねえだろ、今は」


『そういう問題じゃなくても私にはダイゴさん突き飛ばすとか無理』


「あのなあ……」


「グリーン妬いてる妬いてるー!」


「うるせーなカスミ!」




レンと話してた女子達がからかってくる。
ジムリーダーのカスミにイブキ、シンオウ地方現チャンピオンのシロナ…なかなか豪華な面子だ。
レン、性格がいいから女子たちとも仲いいんだっけ。


カスミの言葉に反論はできない。
妬いてる…のかわかんないけど、多分そうだと思う。
オレ以外の男で必要以上にレンに近づく奴にはイラッとするし。



腕の中のレンの頭をなでる。
こいつ、人前でくっつくのは苦手みたいでなかなか顔を上げない。
それでも別にいいや、と抱き締める。




「なあレン、お花見楽しいか?」


『楽しいよ?』


「オレいなくてもあんまり変わんなくねえ?」


『そんな訳ないでしょ』


「じゃあさ、なんでオレ放っておくわけ?」


『……ごめん』


「あとさ、さっきオレ女子に絡まれてたんだけど」


『知ってる』


「すげーくっつかれたりしたんだけど」


『…知ってる』


「……あのさー、少しは妬いてくれたりしないわけ」


『………いでしょ』


「ん?」


『妬かないわけないでしょ…』




顔を見せてくれないのは変わらないけど、多分今顔真っ赤にしてると思う。
背中に回ってる腕の力強くなったし。
…オレも結構赤いと思うけど。



オレ、やっぱこいつしかいないわ。
改めて思った。




「お熱いねえ、お二人さん」


「まあな!」




さっきまで気分落ち込んでたのが嘘みたいなオレに、自分で単純な人間だと思った。
単純でもいいや、こいつがいれば。




「レン、弁当食べたい」


『ん』


「全部オレが食べるからな!」


『はいはい』




くすくす笑うレン、可愛かったから上を向かせて口付ければまた顔を赤くした。
桜のピンクと同系色で可愛い、もう一回しようかとも思ったけど自重した。
家帰ったら飽きるくらいしてやる。



ようやく、花見に来てよかったと感じ始めたオレがいた。








そうさせるのはオレだけでいい



(放っておかれた分、覚悟しろよ)
(いくらでもどうぞ)







END.



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需要全く考えてなくてごめんなさいヒイイ…でもグリーン好きなんです大好きなんです書いてて超楽しいんです…

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