大切なただの幼馴染
「レンー」
放課後、
部活帰りに見つけたのは幼馴染。
声が聞こえて、横目でちらっと姿を確認する。
学校の敷地内のちょっとした草原、無駄に広い学校にある何に使うのか分からない空き地みたいな場所に彼は寝転がっていた。
今日は帰りに買い物がしたくて、いつもとは違う道順で帰ろうとしたらこれだ。
ここ最近の私が一方的に関わりたくないひと。
帰りで一緒になるなんてめったにないのに。
タイミングがばっちり過ぎる、なんて運が悪いんだろう。
いつものように聴いている音楽で聞こえないフリをして通り過ぎようとする。
別にそこまで大音量で聞いていないから、声をかけられれば普通に気付くんだけど。
どうやらそれがバレたみたいで、わざわざ起き上がって走ってきた。
片方イヤホンを外されて、無視するにもできない状況に持ち込まれる。
『……なによ』
「なにって、見つけたから声かけただけじゃん」
『私、今から買い物行くんだけど』
「そんな急ぐもんじゃないだろ?」
『………』
明らかに不機嫌な私の声と顔に、困ったような幼馴染ことグリーン。
私の顔は歩く方向、彼の方なんて向いたりしない。
視線だけ一瞬向けて、睨んだ後ですぐに前に戻した。
「…なんかレン最近オレのこと避けてねえか?」
『気のせいじゃない?』
「気のせいなわけあるかよ…」
『じゃあ気のせいじゃないんじゃない?』
「……それはそれで困るんだけど」
『なんでよ』
「なんでって、それってつまり嫌われてるってことだろ?
オレ何かしたっけ?」
『さあ?』
ぶっきらぼうな返事、声をかけてくれた相手にこの態度。
我ながら嫌な奴だけど、仕方ない。理由がなければこんなことはしないし。
早く帰らせてよ、視線だけで訴える。
更に困った顔をしたグリーンは、急に真面目な顔をして私の腕を引っ張った。
『!ちょっと、』
「時間ないわけじゃないだろ、少し付き合え」
彼が寝転がっていた草原に半ば強制的に連れられる。
私たちももう高校生、力で敵うはずがない。
先に座ったグリーンにため息をつきつつ、その隣に腰を下ろした。
制服のスカートから出ている脚に草があたってくすぐったい。
ちらっと横を見る。
久しぶりにまともにグリーンの顔を見た気がした。
と言っても、実際は数日間なんだけど。
その事実を理解したとき、数日見ないだけで久しぶりだと感じている自分が嫌になった。
「……もう一回聞くけど、オレ何かしたか?
学校で会ってもずっと不機嫌だし、返事が明らかに素っ気ないし、どう考えても避けられてるじゃん、オレ」
『…別に』
「じゃあ何だよ、
もしかしてオレに彼女できたことに関係あんのか?」
その台詞に含まれる単語に少なからず反応して、自分の顔が引きつったのが分かった。
それに気付いて慌てて表情を戻したときにはもう手遅れ。
やっぱりか、と空を見上げながら呟くように言うグリーン。
数年間一緒の学校に通っているだけある。
無視しようとしたのもだけど、多少の事は大体見通される。
この人との付き合いは、長い。
「レンの態度変わった理由、それくらいしか思いつかねえもん。
ここのとこそれ以外特に何かあった気がしないし」
『……分かったんなら早く帰らせてよ、私買い物行くの』
「だめ。もう少し話がある」
『なによ、彼女さんに怒られるわよ』
「別にこれくらいわかんねーよ、学校違うし」
『……最低…』
バレなければいいのか、この人は。
それは男としてどうなんだ。
顔も名前も知らない彼女さんに同情する。
「で、レンは何でそれでオレを避けてるわけ」
『…変な誤解生まないために決まってるでしょ。
面倒な事に巻き込まれたくないの、気遣ってんの、分かるでしょ』
だんだんめんどくさくなってきて、余計に早く帰りたくなってくる。
逃げだそうとも思ったけど、私は残念ながら足が遅い。
ここで一緒にいたらわざと話さないようにしているのが意味ないじゃないか。
要らないところにはどんなに細かくてもやたら気が付くくせに、こういうところには気が付いてくれないらしい。
細かくないのが逆にいけないのか。
…ああ、私の気遣いが無駄になっていく。
そもそもこの人に気を遣う方が間違いだったのか。
名前以外に緑のカケラもない彼から、青々とした草原に見つけたクローバーに目を移した。
「……ふうん、それで突然避けられるようになったわけね。
そういやオレ、彼女できたのって言ったっけ?」
『いや、友達から聞いた』
「そうだよな、オレレンに言ってねえもんな。
で、気を遣ってわざとオレと話さないようにしたと」
『そういうこと。
分かったら帰らせて』
「だめだ」
『なによ、もう話すことないでしょ』
「…なあレン、オレがなんで付き合ったとかその友達に聞いた?」
『聞いてないけど』
急に何よ、そんな話聞いてないし聞きたくもない。
こっちはさっさと買い物済ませて帰りたいってさっきから言ってるでしょ、そんな言葉を台詞の裏に込める。
私の気持ちに気付いてないのか、グリーンは最初のように寝転がった。
…いや多分、無視してる。気付いてるけど無視してる、さっきの私みたいに。
思わず少しだけ睨んだけど、すぐに目を逸らした。今はこの人の顔、あんまり見たくない。
流れる雲をぼんやりと見上げる彼、その視界の隅っこに、きっと私は映ってるだろうけど。
「…しつこかったんだよ、相手の女の子。
一つ下なんだけど、毎日のように夜までメールしまくってきてさ」
『拒否だの無視だのすればいいじゃん』
「それがさ、部活の先輩の妹なの。多分メアドもそっから流れたんだと思う。
拒否しづらいじゃん、軽く相談もしたけどなんかだめっぽくてよ。
しまいには学校違うのに下校時間に門で待ってるの」
『積極的ね、良かったじゃない』
「あのなー……。
…で、仕方ないから付き合ったの。どうせ学校違うし、オレは部活で忙しいし、自然消滅予定」
『……最低だね』
「仕方ないだろ、そうでもしないとしつこすぎてやってらんねーんだもん。
忙しいし返せないからって言い聞かせてメールやめてもらった、帰りも時間遅いから来るなって釘刺しておいた。だいぶ楽になった」
『ふーん。
じゃ、私帰るわ』
「だから待てって」
『グリーンの話聞きに来たわけじゃないんだけど』
「知ってる。これから本題。
だからさ、気遣って避けるとかやめろよ?
オレは別に相手のこと好きじゃないし、今までずっと仲良かったレンと急に話さなくなるとかさ…なんか違和感あるじゃん」
『……そうね』
「それにさ、そっちのがオレ、つらいし」
『何と比べてるの?』
「その女の子と別れるのと比べてんの」
『…ふーん』
そんなに好きじゃないなら付き合わなきゃいいのに。
そう言おうとしたけどやめた。
それが無理なのを、私は分かってる。
グリーンが優しいのは知ってる。
付き合ったところで最終的に相手が傷付くのは知ってるだろう、でも断ったら断ったでやっぱり相手は傷付くのだ。
きっとグリーンなりに考えた結果がこれなんだろうと思う。
私に気を遣うなと言った彼の声は、少しだけ悲しそうだった。
「…レン、ほんとにやめろよ?
ここ数日冷たすぎて結構ガチで焦ったんだからよ」
『はいはい』
「そういやレンってさ、好きな奴とかいねえの?」
『……別に』
「オレに彼女できたって聞いて避けだしたのって、他に理由とかねえの?」
『あってほしいの?』
「………うん」
『…!』
半分冗談で聞いたのに、返ってきた答えが真面目で言葉に詰まる。
思わず振り返ってグリーンを見たら視線がぶつかった。
答えと同じく真面目な顔の彼にどうすればいいかわからなくなる。
「…だってさ、今までずっと一緒にいたじゃん。
オレに彼女できたら妬いたりとか、さみしがったりとか、してくれたりしねえの」
『別にしないけど』
「まじかよ……オレってそんなもん?」
『…何よ、突然』
「……オレさ、ほんとはさ」
『!ちょっ、と』
突然腕を掴まれて引き寄せられる。
相手が寝転がっているせいで体勢を崩して、その上に倒れこんだ。
急いで起き上がろうとしたけど、その分力を強める彼に抵抗は無意味だった。
ぎゅっと抱き締められて、こんなことされるのは初めてで、どうしていいか分からなくて、
でもずっと前からきっと私はこうされたくて。
彼女ができたと聞いたとき、頭が真っ白になったのは事実で、避けようと思ったのもどんな顔して接していいのか分からなかったからで、気を遣うというのもただの口実で。
さっきの私の言葉はどうやっても強がりで、妬いてるのも寂しかったのも分かってたのに分かろうとしなかっただけで。
でもそれは、グリーンはちゃんと見抜いてた。
誰が見てるかも分からない学校の敷地内で、それを分かっているのはグリーンもなのに、離してはくれなかった。
いつの間にか体つきが男の人のそれになってて、顔を埋める胸板が厚くて、どうしようもなく胸が高鳴る。
私のことをすべて見透かしたように、グリーンが耳元で囁く。
それがとどめだということは、きっと彼にも知られていた。
「……レンと、付き合いたかったんだけど」
大切なただの幼馴染
いつからそれが崩れだしたのか
(……浮気?)
(いや、違う。オレもともと一途)
(立場的には浮気でしょ)
(そうなるな)
(浮気相手ね…楽しそうなポジション)
(おいおい、悪乗りすんなよ)
END.
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略奪愛系はもう大好物ですね
お題お借りいたしました:「確かに恋だった」様
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