ロマンス逃亡劇





『あのですね…』


「ん?」




突然だが、私は今空にいる。

正確に言えば、グリーンの持ってるピジョットの背中に乗って空を飛んでる。
持ち主のグリーンと一緒に。




『ん?じゃないでしょ、グリーンこれで何回目だと思ってるの!』


「え?…5回目?」


『残念、今月入って7回目!
まだ半ばなのよ!?』




7回目、というのは今月に入ってからのグリーンの仕事サボリ回数。
しかもまだ今月は始まって半分しか経っていない。

グリーンの仕事はトキワジムのジムリーダー。
この人の個人的なプライドで、挑戦者はグリーン以外全員分のジムバッジを集めないと跳ね返される。
つまり彼はカントー制覇の最後のジムリーダーだ。
要するに、この人はさらに強くなった四天王への挑戦権を握っている。


そんな大事なポジションの人がジムをサボって今空中にいる。
これは本来いけないことというか、あってはならないものだ。
それも今月に入って7回目。
わざわざ鍛えてジムに来た結果リーダーがいませんでしたなんて、挑戦者が可哀想だ。




「平気だって、さすがのヤスタカも空までは追っかけて来ねえよ」


『そっちの心配はしてない!』


「大丈夫大丈夫、今日は挑戦者来ねえから」


『そんなの分からないでしょ!』




けらけら笑うグリーンは私の後ろに座っている。
私が落ちないようにするにはこっちの方がいいと言って。

ヤスタカ、というのはトキワのジムトレーナーだ。
グリーンがジムを抜け出しては探しに出るという残念な仕事を担当している。
空までは来ないって……それはそうだろう、この広い空を探すなんて日が暮れる作業だ。




『お姉さんも困ってるじゃない、早く戻らないと』


「………なに、そんなに戻りたいの、レンは」


『…そうじゃないけど……』




ふてくされだしたグリーンへの返事に迷いが生じ出す。
この人の甘えは私の弱みだ。


私だって、できるだけ一緒にいたいというのが本音だ。
仕事柄どうしても会える日は少なくなる。
グリーンがサボってない限り、本当に月に数回ゆっくりできる程度だから。


私の勢いが落ちてきているのを見計らって、グリーンが私を抱きしめる。




「ならいいだろ、もう少し…」




耳元で意地悪っぽく、囁くように言うグリーンは反則だ。
続けて耳を甘噛みされて身を捩る。

私が逆らえないのも全部この人は知ってる。
そのせいで毎回結局は言いなりになるんだ。
ああ、だめだな、わたし。



振り向かずに前を見てむっとしていると、グリーンが私の肩に顔をうずめた。




「………もっと一緒にいたいんだよ、レンと」


『…ばか』




今月はあと何回、こんなことになるのだろうか。














END.