溶けていく。
『まさか雪降るなんてねー!』
学校の帰り道。
午後の授業の始まりから少し経った頃、降り出した雪。
午前の疲れをみんな忘れているのかと思うくらい、教室はざわついた。
今年初めての、雪。
思ったより降っていたようで、帰る頃には地面をうっすらと白くした。
『この分だと、明日には積もってるかもね』
「……」
ふふ、と軽く笑う。
振り向けば足跡が二人分、後ろに続いていた。
隣で一緒に歩いているのは、レッド。
レッドとグリーンとは昔から仲が良く、今でもこうして一緒に帰ることがある。
いつもなら三人なのだが、グリーンは学校の生徒会長。
今日は仕事があるらしく、二人で帰ることになった。
こういうことがたまにある。
それが、今では私のちょっとした楽しみになった。
レッドはおしゃべりなグリーンとは対照的に無口だが、私とグリーンとはよく喋る。
レッドもグリーンもいわゆるモテる男なので、私は友達に羨ましがられる立場。
今こうして二人で歩いてるのだって、何度友達に言われたことか。
「付き合ってるの」、と。
そのたびに否定しては、勝手に嬉しくなっている自分がいた。
釣りあうはずはないと分かっていても、そんな風には一応見えるんだな、と。
『どおりで冷え込む訳だよね。
手袋とかしてくれば良かった』
両手をこすり合わせる。
ふう、と吐いた息は白くて。
コートとマフラーはしてきたけれど、手袋はしてこなかった。
ポケットに突っ込んでいれば多少マシにはなるけど、手袋には勝てない。
横目で私の動作を見ていたレッドが、不意に口を開いた。
「……レン、手貸して」
『え?』
ほら、とレッドがコートのポケットに突っこんでいた手を差し出してくる。
よく分からないが、とりあえず片手だけ恐る恐る差し出した。
そうすれば、じれったいと言うように、「両手」と言われた。
「冷たい…ボクが手袋あれば良かったんだけど」
『え?へ、平気だよ別に』
ぎゅ、とレッドの手が私の手を包む。
私よりも一回り大きいその手に、私の手はすっぽりと収まった。
私以外の、温もり。
まさかの事態に、頭は一瞬パニックになりかけた。
が、私の脳は先に、ここを見られでもしたらどうしようと反射的に考え出した。
私の目は、自動的に周辺を見渡していた。
見られたのが学校の知り合いだったとしたら、変な噂を流されかねない。
私には嬉しいくらいだけど、レッドは困るだろう。
『レッド、私、もう大丈夫だから…』
「………」
惜しみつつ手を放そうとすれば、レッドは手に力を入れてきた。
逃げようにも、力の差は知れたもの。
握られた両手は、レッドの両手から抜け出せない。
それに驚いてレッドを見れば、視線がぶつかった。
逃げられないのは、どうやら手だけではないらしい。
「…レン、」
『なに………っ!?』
視界は、逃げられなかったレッドの目から一気に真っ黒になる。
急に腕ごと引かれ、抱きしめられた。
予想できないレッドの行動に、頭はまるで付いていけなかった。
手と同じように、私の体は彼の胸の中にきれいに収まる。
感じる身長差に、ドキドキは隠せない。
「寒い…でしょ?」
『さ、寒い、けど…!』
確かに寒いという内容の発言はした。が、何か違う。
私はただ、手袋があれば良かったなと言っただけだ。
それでも、抱きしめられてるという事実にクラクラしてきた。
さっきまでレッドと視線を合わせていたのに、今はもう上を向くどころか地面しか見れない。
うっすら白い地面に、私の逃げ道は見つけられなかった。
今の私の顔はきっと、地面とは対照的に真っ赤。
外は寒いのに、顔は熱い。
ちらちらと舞う雪は、私の体温で一瞬で溶ける。
たくさん降ってきたとしても、今の私にならきっと全部溶かすことができる。
しばらくして、だんだんと落ち着いてきたものの、それは逆効果なようで、
状況を理解すればするほど、私の頭はショートしそうになっていた。
『……やめてよ…』
何とか絞り出した声は、雪の降るこの静かな場所でも響かなかった。
それでも、レッドには聞こえているはず。
今この状況で変な勘違いをするのは、
きっと、通りがかった友達以上に……私の方。
「やめて欲しかったら、それなりに抵抗してみてよ」
『…ッ』
さらに力がこもる。
抵抗しても無駄なことぐらい、レッドもわかってるのに。
挑発的なのに、どこか切なそうに彼はつぶやく。
抱きしめる力が少し強まる。
私にはもう、どうすることもできなかった。
倒れそうなくらいクラクラする頭に、
彼の言葉が突き刺さった。
「…スキだよ、レン」
溶けていく。
雪も、私の心も
END.