敵は神サマ一人だけ

 




「な、なあレン!」




今日の大乱闘は絶好調だった。


同じ剣士であるロイに一敗もせず、
あまり得意としない魔法を使うタイプのネスやリュカにも苦戦せず、
パワータイプのクッパにも難なく勝利を収めた。

合計七戦して全勝。久しぶりに気分がいい。


そんなんだから、
廊下で偶然出会った少女に、珍しく浮かれて声をかけてしまった。




『…?
なあに、リンク』


「あ、あの……良かったらオレとどっか行かない?その…食事、とか」




振り向いた彼女は綺麗な茶色の髪を揺らしながらこちらを見てくる。
年下なのに大人びててどこか高貴な雰囲気を漂わせている一方、あどけなさも残す少女。
ぱちり、目が合った瞬間に心臓が波打った。


しかしそれも一瞬で、困ったような顔をして頭を軽く下げた彼女にオレの珍しい勇気は儚く散ることになる。




『ごめんなさい、私ついさっきマスターに呼ばれたの……また今度でいい?』


「あ、そ、そうなのか?…分かった、また今度な!」




手を振ったオレに同じように振り返したレンの姿が小さくなっていく。
それが廊下の角で完全に消えた頃、一人溜息をついた。




「マスターに呼ばれてたのか……直々に呼び出しって…何だろ、」


「あの二人ならどうせデートでしょ?」


「ふーん、デー…ト!? は!?デート!!?
……ていうかマルス、いつの間に?」


「失礼だね。ここは休憩所に繋がってるんだから誰でも通るよ」




知らぬ間に後ろにいたのはマルス。レンに気を取られていたからと言えどつい今しがた気付いたオレは驚くしかない。

が、最も驚くべき場所はそこではなくて。




「デートって何!?マスターまさかレンに惚れてんのか!?」


「そのようだけど。むしろ両思い?」


「…は!?……え?
え、マスターって右手だろ?人間じゃないだろ?」


「……そうだねえ」




どうやらマルスは大乱闘の合間に通りがかっただけのようで、足を止める気はないらしくそのまま休憩所の方向へ。
それを慌てて追いかける。




「え、レンとマスターって付き合ってんの…!?」


「二人共はっきり断言はしてないけどね……僕が見てる限りは。
直接聞いてみればいいんじゃない?」


「なっ…できるわけないだろ!」




大乱闘で疲れているのか、どこか気怠そうに答えるマルスは前方を指差す。視界の先には休憩所の隣にある食堂。
昼時だしいるんじゃないの、と若干投げやりな返事。




「普段はあんまりいないけどね…さっきの君の様子だとこっちに向かってったんでしょ?
この先食堂と休憩所しかないし、ほぼ間違いなくどっちかにいると思うよ。マスターがワープで飛んでなければ」


「えー…ああ、まあ、そうだろうな…」


「……何?」


「いや…、」




思わず言葉を濁す。さっきまでの上機嫌は何処へやら、聞かされた仮説に一気に沈むテンション。
勘の鋭いマルスが言っていたことだから余計に。

おそらく二人は彼の言うとおりどちらかの部屋にいるだろう。
しかしまあ、マルスの言葉を聞いた直後のオレからすれば正直行きづらい。


もし仮に、仮にだ。本当に付き合ってるなら、今頃二人は仲良く食事でもしてるわけで。




「(まさかあの鈍感代表みたいなレンが…大体マスターってでかい右手だし惚れる要素なんてどこにも……そもそもあの人も恋愛とかすんのか…?
普段は人間の姿だけど化けてるだけだし…イケメンだけどあれは仮の姿だし……)」


「………」


「(いや待てよ、仮の姿でも本人に変わりはないんだから…もしやレンはあの人の変身した姿に惚れてるんじゃ……?でもあのレンが?……ない、ないない有り得ない。オレのアタックに気付いてくれたことねーもん。さっきのも含めて)」


「…あのねリンク。僕の目の前で無言で百面相するのやめてくれる?
そんなに信じられないなら一緒に来ればいいじゃん」


「…っ!?」




ぐいっ、と。
突然引っ張られたかと思えば、目の前でマントを翻した彼は何の躊躇いもなく食堂のドアを開け放った。




──




「おや…珍しい組み合わせだね」


「うん、まあ」


「…!……!!」




突然のことに逆らえもせず足を踏み入れた食堂。もつれた足に転びそうになりながらもなんとか姿勢を保つ。
部屋に入ってから数秒、聞こえてきたマルス以外の男の声に顔を上げる。
予想がついていたにもかかわらず、やはり実際に見ると違うというかなんというか。


あんまり接点がなさそうに見えていたレンとマスターが、二人席で向かい合って食事をしていた。




『あ…リンク、さっきはごめんなさい』


「い、いいんだ別に!」


「……さっき?」


『ええ。リンクに食事に誘われたの』


「!!」




悪気がないであろうレンは何も隠さずに事実を並べてのける。――まずい、マルスの話が本当ならこの人相手に喧嘩を売っていることになるじゃないか。


一人縮こまっていれば、案外マスターは「そうか」と一言声に出しただけで。




「悪かったな、私が邪魔をしたようだ」




――また次の機会にしてくれ。
軽く微笑んだマスターに違和感を覚えながらもマルスが座った奥の席に座る。




「なあ、ほんとに付き合ってんのか?マスターが食事に誘ったのは本当っぽいけど……」


「…さあね、ただの僕の印象さ」


「付き合ってる彼女に他の男との食事許すか?普通…」




男が女性を食事に誘うときなんて大体決まっている。
それをああもあっさり、本人の目の前で承諾。オレだったら払い除けているところなのだけども。


それに未だに二人が付き合っているだなんて信じられない。マルスが言うのだから信頼度は高いと思うのだが、正直全く現実味がない。

マスターから呼び出しているのだから惚れているとすれば彼の方、しかし彼の立場からして単純に事務的な連絡だということも十分有り得る。あの人はこの世界の創造神で、レンをこの世界に連れてきたのは彼だから、何かレンの世界に関する連絡事項を伝えに来ただけではないだろうか。それで、ちょうど昼時だから一緒にお昼ご飯。普通に有り得ると思う。


マルスの「どうせデートでしょ」という発言からしててっきりいちゃついてるのかと思えば、全然“それっぽいこと”はしてなさそうだし。




「そもそもあの二人が恋愛って、あんまり想像できないんだよな…。レンも鈍いし……」


「そうだねえ…でも実際、わからないものさ」


「そういうもん?」


「じゃなかったら、この僕が手を引くなんてことはしないよ」


「……、え?」


「ああそうだ、リンク君」




マルスがティーカップに口を付けるのとほぼ同時。溢れた言葉に目を見開く。
思わず聞き返そうとすれば、少し離れた場所から自分を呼ぶ声。

反射的に振り返ればマスターがこちらを見て手招きしていた。
マルスに続きを聞きたかったが、無視するわけにもいかず席を立つ。


正直勝てる気がしなかった、と。
初めてとも言える弱音があのプライドの高い王子から聞こえたのはなにも気のせいではなかったのだと、そう気付いたのはこの数分後。




「な、何でしょう?」


「まあまあ、そんなに硬くなるな。
もしかしたら私の思い違いかもしれない、そうだったらすまない」


「はい…?」




同じように椅子から立ち上がった彼は自分よりもだいぶ背が高い。
レンからもマルスからも離れた中間地点で、オレに合わせて屈むその人はいつもと同じように柔らかく笑う。そう、そこからが早かった。


不意に鋭く細められた紫色の瞳と、見たことのない彼の不敵な笑い方。脳天を銃で撃ち抜かれたような感覚、だった。




「――レン君は、渡さないからな?」







おそらく、最強


(冷や汗すごいよ、リンク)
(こ、殺されるかと思った……)
(ふふ…そうだろ?余裕そうなのがまた、ね。ちなみに犠牲者は君で四人目だ)
(……え?)




END.




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恋愛いしなさそうな二人のガチ恋愛。
右手さん好きです。

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