観覧車下の彼






「オー!レンじゃん!」




ライモンシティ東にあるちょっとした遊園地。
そこにある大きな観覧車は、この辺ではかなり有名。


その観覧車の下にいる一人の男の子が、前を通りがかった私にいつものように声をかけてきた。
この人――ハルオは毎日、飽きずにここにいる。なんでも観覧車は一人では乗れないとかで。
それで私が来ると決まって声をかけてくる。


よく飽きないなとは思う。
でも考えてみれば、そう思いつつもここに通い詰める自分も同じ穴の狢。




「あ、あのさ、もしよかったらオレと一緒に遊ばない?
ポケモン勝負したり…観覧車乗ったりしてさ?」


『…いいよ』


「え?いいの?マジで!?
やった!サンキュー!!
やっぱオマエいいヤツだな!

じゃあさ、さっそくだけどポケモン勝負しよーぜ!」




嬉しそうにモンスターボールを取り出す彼に、私も同じようにモンスターボールを構える。




「いけ、ダルマッカ!」


『スワンナ、お願い!』




ハルオの相棒はダルマッカ。
相性が良いスワンナで応戦する。




『スワンナ!なみのり!』




素早さで勝るこちらが先制。
迷わずなみのり、威力も強いし効果も抜群。

レベルもスワンナの方が上で、勝負はすぐに決着がついた。




「いてて…オマエなんでそんなに強いわけ?」




「お疲れ様」とスワンナをボールに戻せば、彼も同じようにダルマッカをボールに戻した。

賞金を払おうとする彼に「別にいいよ」と断る。
毎回貰っていてはそのために来てるみたいに思われそうで。




「あー!悔しいぜ!
つーかさぁ、相変わらずオマエめちゃくちゃ強いよなー。
もうさいっそチャンピオンでも目指せばいいと思うぜ?
オレレンだったらマジで夢じゃないと思うし、いくらでも応援するよ!」


『…ありがと』


「さーてと…
それじゃあそろそろ観覧車行こーぜ!」




ほらほら、と手を引かれる。こればかりは何度やられてもいちいちドキリとしてしまう。

案内人からの視線は相変わらず。
それを見なかったことにしてやり過ごす。

観覧車に男女二人。それも毎日。
この人はその意味を分かって乗っているのだろうか。



順番が来て、ゆっくりと回る観覧車に乗り込む。
ちらりと横を見れば楽しそうな彼がいた。

扉が閉まれば、完全に二人だけの空間。




「…のぼってるのぼってる…。
オー、意外にスピードあるなコレ」


『毎日乗ってるじゃない』


「毎回思うんだって!
外から見てるとすげーゆっくりに見えるのに、ってよ。

お!ちょっとこっち来てみろよ!
ほらアレって……」


『ああ、ピカチュウの……、…!!』


「!?
う、わ……、…!!」




――ぐらり、
片方だけに重さが偏った観覧車は、少しだけ揺れた。
その揺れで移動のため立ち上がっていた私がバランスを崩す。



足がもつれて倒れ込む体、それを反射的に支えてくれた彼の腕。
一気に縮まった距離。


ドキリ、
心臓の鼓動が速まった。




『ご、ごめん…!』


「え!?い、いや別に……」




急いで彼から離れて座り直す。彼の顔を直視出来なくて外の景色に視線を移した。
心臓がまだバクバクとうるさい。
何となく流れる、気まずい空気。


ゆっくりと移り変わる外の景色はもう見慣れたはずなのに、何故か毎回新鮮なものに感じて。
ちらりと横を盗み見ればどうしたものか、ばちりと視線が合ってしまった。
再び視線を外に戻して降下するのを静かに待つ。

案外速いもので、すぐに観覧車は一周して二人揃って降車した。




『…どうしたの?』




あれから無言だった彼に話しかける。
なんとなく、ぼうっとしているようだった。




「!
ああゴメンゴメン…ちょっと考え事してた。

なんかさあ……、
レンと遊んでると時間が過ぎてくのがめちゃくちゃはえーなーとかさ、
時間って残酷だなーってちょっと思ってさ…。

ハハッあんま気にすんなよ!」


『……そ、』




こういうことを狙って言ってるのか、ただ単に鈍いだけなのか。
一緒に観覧車に乗ろうと誘うのはもしかして私だけじゃないのかもとか。
今みたいなことを誰にでも平気で言っちゃうタイプなのか、とか。

それがわからないから、私は毎日ここに来るのかもしれない。




『じゃあ、私そろそろ行くね』


「おう!
サンキュー!またあそぼーぜ!」


『…うん、
また明日…来てもいいかな』


「え?お、おう!

き、来てもいい…じゃなくて…来い……よな……」


『!
…うん』


「ぜ、絶対だぞ!
バイバイ!レン!」


『バイバイ、ハルオ』




手を振って別れる。
気がつけば「また明日」なんて言っていた自分に少し驚いた。
「絶対だぞ」なんて返してきた彼にもまた、同様に。


――どうせまた明日も、二人してここに来るくせに。



出口のゲートをくぐったところで不意に彼と最初に観覧車に乗った時のことを思い出した。
多分あれがなかったら、あの時彼が誘ってくれてなかったら、私はこんなに通い詰めることもなかったと思う。



――観覧車なんてさ、もっとガキっぽいもんだと思ってたよ。

でも、眺め綺麗だし……ちょっと…ドキドキしたし…。
たまにはこういうのも悪くないって思ったよ。

よかったらまた乗ろーぜ!
じゃ、またな!









(どうせまた、いつものように)







END.





------------------------------------

セリフはほぼ公式のままで。
ハルオが一番好き。

------------------------------------