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ペパーが言うにはこうだ。

一週間前、とあるクラスメイトから“レンの彼氏なのか”と質問をされた。違うのでそのように答えたら、「彼氏でもないのにベタベタしすぎ」と嫌味のように言われた。
想定外の言葉に何も返すことができず、会話はそこで終了。そのクラスメイトとはそれきり話していない。

言われたことについて、「仲が良いのだからベタベタしていても変ではない。本人も許してくれているので問題ない」とは考えたものの、「自分が常に着いて回っているせいで、レンに話し掛けられない人がいるのかもしれない」とも考えた。
そのクラスメイトがまさにそれで、だから自分に突っかかってきたんじゃないかと。




「それで試しに一日離れてみたら、実際オマエに話し掛ける奴がいっぱいいたんだ」


『うーん……言われてみれば、あんまり喋ったことない人から結構話し掛けられたかも…?』


「だろ?チャンピオンって、やっぱ人気あるんだよ。オレがいなかったらもっと早く友達になってた奴もいっぱいいたと思う。
だからオレばっかり独り占めするのはやめようって、そう思って……ちょっと、頑張ってみたんだけど」




「無理だったし、オマエにも心配かけちまった」。
肩口にぎゅっと頭を埋めて、ペパーが力なく呟く。




「理由は話そうと思ってたんだ。
でも今オマエの顔見たら、せっかく離れられたのがまた我慢できなくなるって思って……もう少し慣れるまで待とうとしたら、…先に、オマエが来た」




――ごめん、ちゃんと話せてなくて。
体を離してペパーが私の両肩に手を置く。眉毛はハの字に下がっていた。


つまりこの一週間、ペパーに「避けられ」ていたのは確かだけど、嫌われたとか私が何かやらかしたとかではなく。「チャンピオンを独り占めしたら他の皆に悪いと思ったから、仕方なく離れていた」と。
何だその、そこはかとなく回りくどくて面倒くさい理由は。ペパーに変なこと吹き込んだのはどこのどいつだ。次に見掛けたら、今度は私から文句を言ってやる。

はぁ、と一週間分の溜息が漏れた。
無駄に気を張ってたのがバカみたいだ。こんなことなら三日目くらいで問いただしておくんだった。




『事情は分かった……けど、やっぱり急にいなくなると心配するよ。わたしだけじゃなくて、ネモもボタンも気にかけてた』


「あ……ゴメン。あいつらにも謝っとく…」


『…ペパーさ、一人で抱える癖直ってないね。
わたし達にくらいワガママ言いなよ。取り返しがつかなくなる前に』


「…、あ……」




泣きそうな彼の頭をぽんぽんと撫でる。

今よりずっと小さかった頃、大切な人に言いたいことを言えず我慢し続けた彼。失ってから気付くのでは遅いということは、ペパーが一番よく知っているはず。
私の言いたいことを察したのか、彼はきゅっと唇を噛んだ。




『わたしのことでいろいろ考えて動いてくれたのは嬉しいよ、ありがとう。でもわたしだからこそ、相談とかしてほしかったなあ』


「うう、ごめん……」


『ペパーに嫌われたのかと思って焦ったよー。お昼も誘ってくれないし』


「お、オレがオマエを嫌いになるわけないだろ!! 絶対ありえねー!!」


『あはは、ありがとう。一週間も耐えられないくらい好きでいてくれて』


「…、う……」


『大丈夫、わたしもペパーのこと好きだから』


「!」




まさかちょっと離れただけでどうこうなるほど好かれていたとは。ペパーが私に懐いてくれていることくらい、態度を見てれば明らかだったけど。そんなにかあ。
からかうように言えばペパーは顔を赤くして、でも反論はできないみたいで黙り込む。けど私も多分人のこと言えないなって思って、俯いている彼の頭をもう一度ぽんぽんと撫でた。




『そういうわけで。彼氏になっちゃおっか、ペパー』


「!……え!?」


『“彼氏でもないのに”って言われたんでしょ。彼氏ならいいってことだよね?』


「え?…は?オマエ、意味分かって……」


『さすがに分かってるよ』




勢いよく顔を上げたペパーと視線がかち合う。
睫毛長いなあ、なんて、今はどうでもいいことが思い浮かんでは消えた。




『傍にいてくれないと守れないから。
適当なこと言ってくる外野なんて気にしないで、好きなだけ傍にいてよ。…ペパーを泣かせる奴らは、わたしが全員追っ払うからさ』




――まあ、無理に“彼氏になれ”とは言わないけどね。

苦笑いして見せると、ぱちぱちと目を瞬いていた彼が慌てたように私の手を掴んだ。




「な、なる!! レンの彼氏にしてください!!」


『…あれ、いいんだ』


「いい以外にあるか!! ……今度こそ離れられなくなるけど、良いんだな?」


『いいよ。ペパーのこと守りたいなって、わたしは“あの時”からずっと思ってる』




だから一緒に居てくれた方がありがたいかな。
そう言ったらペパーは黙って近付いてきて、またぎゅっと強く抱き締められた。


一週間前までは近いけど一応「友達」の距離を保ってたのが、この日を境に「恋人」の距離まで縮まって。
ネモやボタンを含む周りの人からやいやい言われるようになったのは、また別の話。






るものを 2




END.