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オレンジアカデミー校舎内、食堂入り口にて。
壁にへばりついたまま一向に中に入ろうとしない私に、通りすがりの学生が次々と不思議そうな視線を送る。




「でさ!オレも何か作ろうと思うんだけど……」




もちろん理由なくこんなことをしているわけではない。食堂で昼食を食べるという至極真っ当な目的を持ってここに来たのだが、中から聞こえてきた声のせいで入るにも入りづらくなってしまったのである。


数分前、足を踏み入れようとした瞬間に聞こえたのは、「つまりオレがレンにチョコを贈る日ってことだよな!!」というよく見知った人間の声だった。




『(ペパー、声がでかすぎる……)』


「レンってチョコ好きだったよな?でもありきたりなチョコのお菓子じゃつまんないよなー…」


「そうかな?普通にそのままチョコレートでも、クッキーでもケーキでも良いと思うけど!」


『(ネモの声も負けてない……)』


「どうせケーキにすんなら、でっけえホールケーキにしてえなー」


「それ学校に持ってくるん……?」




昼時でだんだん賑わってきた食堂。それに伴って私に向けられる「何してんだろう」の目が増えていく。私はいつまでここにいれば良いのか。

自分の話で、しかも本人がいない方が良さそうな話で盛り上がっているのを分かってて突入するのは気が引ける。気が付かずに入っちゃったならまだしも。
すぐ終わるかと思いきや意外と終わらなくて、「オレのレンへの気持ちはそんなんじゃ伝えられねえ!!」「はいはい」みたいな聞いてて恥ずかしいセリフまで聞こえてきて、何なんだ本当に。何の羞恥プレイよ。

10分くらい何もせず突っ立ってたら「そろそろレン来るかな」というネモの声が聞こえて、そこでようやく“終わった”と思った。やけに長く感じる時間だった。

どういう顔をして合流すれば良いのか分からなかったけど、とりあえずシラを切る方向で行こうと決める。今すぐ出てくとタイミングがバッチリ過ぎるからちょっとずらそう。あと3分待とう。


火照る顔と呼吸を落ち着けて、できる限りいつも通りのテンションでいつもの三人と合流した。




――




『(…と、いうのが先週なわけですが)』




あれからちょうど一週間。先週ペパー達が大声で話していた、例の日の当日がやってきた。

バレンタイン。いつから始まったのか分からないけど、主に女性が好きな男性へ贈り物をする日。
最近は好きな人以外でも気軽にあげることが多いから、今日は男女問わずたくさんの人がお菓子を贈ったり贈られたりしていた。


そんな中、先週から気にかけていたペパーは朝教室に行ったら私の席に座っていて、




「レンっ!おはよ!!」


『ペパー……おはよ。なんでわたしの席に?』


「今日バレンタインだから!!オマエに一番にチョコ渡そうと思って!!
あと、夜予定空けといてほしいから言いに来た!今日の夕飯、オレの部屋に集合な!!」




…と、これまた周りに聞こえるくらいの大きな声で言ってからすぐに教室を出て行った。用事がそれだけなら別にお昼でもいいのに、ていうか私からのチョコには言及しないんだな。課題か何かで時間がなかったのか、足早に去って行ったその背中を自分の席から見送る。
手には一方的に渡されたチョコレートの入った袋。ピンク色の可愛らしいラッピングから、これまた可愛くデコレーションされたハート形のチョコが透けて見える。パッと見は男子生徒が作ったとは思えない。
しかもあの言い方、このチョコはサブでメインは夕飯ってところか。

ペパーにとってはきっと初めてまともに参加するイベントなのだろう。ありありと“浮かれてます”と顔に書いてあった彼を思い出して、一人その場で微笑んだ。