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「レン!」


『うわっ』




部屋に入るなり抱き締められる。待ち構えられてるとは思わなくてびっくりした。
荷物を持っているので、ひとまず空いている片手で抱き締め返す。…結局ずるずる引き延ばしてこの時間になっちゃったな。

「今スープ盛るからな」と、ペパーが私を先に座るよう促した。




『すごい、パーティみたいになってる……』


「へへ、チョコとはあんま関係ないけどな」




いつも置いてあるオラチフ用のベッドが隅に片付けられ、代わりに二人掛けの椅子とテーブルが用意されていた。その上にはまるで今から誕生日パーティでもやるかのような、豪華な料理の数々。

「デザートはチョコにしたぜ!」と、熱々のスープを持ってきたペパーが向かいに座る。デザートまであるらしい。




『気合い入ってるとは聞いてたけど、予想以上だね……』


「え、誰かから聞いてたか?」


『ちらっとね。ネモが“ペパー張り切ってるよ!”って言ってたから』




――まあ、朝の時点である程度は分かってたけどね。
そう言うと、「やっぱりそうだよなー」とペパーが笑う。いや、本当のことを言えば先週からすでに分かってたんだけども。
とはいえ、バレンタインでここまで豪華な夕飯がついてくるとまでは思っていなかった。せいぜいペパーお手製の大きなホールケーキが出されるくらいかと。…もしやこの後、冷蔵庫から出てくるんだろうか。

滅多に食べることのない分厚い肉を頬張っていると、ふとキッチンの上に見覚えのある袋とない袋を見付ける。




『(ネモとボタンのは分かるけど……)』


「…クラスの奴から貰った。今までもバレンタインは知ってたけど、実際貰ったのは初めてだなー」


『ふーん…』


「……妬いた?」




ペパーが目の前でニヤリとする。あ、罠にかかったと思った瞬間だった。…この人、わざと見える場所に置いてたな。

魂胆は分かったけど、実際ちょっとモヤッとしたのは事実で。否定できずに「まあ…」と零すと、小さなテーブル越しに身を乗り出した彼に不意打ちで触れるだけのキスをされた。




「返すの面倒だし、ぶっちゃけ断ろうと思ってたんだけどさ。
もしかしたらレンが妬いてくれるかも…って思ったら、受け取っちまった」


『動機が不純過ぎる……』


「だって、いっつもオレばっか妬いてるだろー。たまにはオマエにも妬いてほしいっていうか…」




――ま、ホントに妬いてくれるかは賭けだったけどな!

まだお互い慣れてないキスで、お互いに顔を染める。満足気に笑う彼は心底幸せそうだった。
確かにペパーは人一倍ヤキモチ焼きだけども、私だって人並みに嫉妬くらいするんだけどな。…この感じだと、多分気付いてないんだろう。

「レンに出会ってなかったら今年も義理チョコすら貰ってなかったぜ」と続けた彼は、今までを振り返るように目を細めた。