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『……ペパーの後で、とても出しづらいんだけど…』
「へへ、待ってました!」
ガサゴソと持ってきた荷物の中を漁る。
今年以降のバレンタインで、彼がこれまで悲しい思いをしてきた分を取り戻せたら良いなと思う。が、果たしてその役が私に務まるかどうか。
複数の種類のドキドキを抱えながら、用意してきたプレゼントを彼の前に出した。
『こっちがチョコで……』
「うん!……ん?まだあるのか?」
『こっちがその……、』
まずは小さな袋から。無難に作れたチョコとクッキーの詰め合わせ。ネモやボタン、先生達に配った物のちょっと量が多いバージョン。
味見もしたし、多分これは普通に美味しく食べてもらえるはず。
出すのを躊躇ったのは二つ目の大きな袋で、夕飯になるまで渡すのを渋った原因にもなったものだった。やっぱりこれは微妙だったかななんて、今更後悔してももう遅く。
「んーっと……マフラーか?」
『うん。ペパーに料理じゃ勝ち目ないから、何か別のものも用意しようと思って…』
「え、そんなこと気にしてたのか!? オレはレンが作ってくれるもんなら何でも嬉しいぞ!!」
『ペパーならそう言ってくれるかなと思ったんだけど、わたしが納得できなくてさ。……それで、編んでみたんだけど…』
「編んだ!? ……え!?これ、レンが作ったのか!?」
『うん…。だからあんまり、売ってるやつみたいに綺麗じゃないんだけど…』
何だか気まずくなってそっぽを向く。
袋の中からペパーが取り出したのは、私の作った手編みのマフラーだった。
マフィティフっぽいかなと思って、色はグレー。普段から編み物をしてるわけじゃないから初心者でもできる一番簡単な編み方で、でも売り物みたいに編み目が綺麗に揃っているわけではない。
どうやってもペパーより素敵なお菓子は作れないし、それ以外で何にしようかと考えて、いろんな店を見て回ってるときにふと思い付いたものだった。恋人への贈り物としてはメジャーで良案なんじゃないかと、そのときは確かにそう思ったのだけど。
ひたすら編んでいるうちに何だか冷静になってきて、「引かれるんじゃないか」とか「貰っても困るんじゃないか」とか、マイナスな考えも結構な確率で頭に過って。でももう日付も迫ってて、他に良い案も思い付かなくて、結局そのまま当日がやって来てしまったのだ。
マフラーを手に黙ったままのペパーに、やっぱり反応に困るかなと考え始めた頃。
わざわざ立ってこちらに回り込んできた彼に、ガバッと勢いよく、強く抱きすくめられた。
『わ、』
「…すっげー嬉しい!!! ありがとう!!!」
『ほ、ほんとに?』
「おう!! …やばい、泣きそ……」
『そ、そんなに?』
気持ち悪がられたらどうしようと思ってたけど、幸いそんなことはなく。…え、ほんとに泣いてるんだけど。
違う意味で予想外の反応をされて戸惑ったものの、何度も「嬉しい」と言いながら泣いてるペパーを見ていたら彼にはこのチョイスで良かったんだなと安心した。
ぽんぽんと頭を撫でると、「サンキュな」とずびずび鼻を鳴らしながら言われる。
「レンからチョコ貰えただけで嬉しいのに、こんな……作るの大変だっただろ?」
『編むこと自体は単純作業なんだけどね。時間はそれなりに掛かったかな…』
「ほんと、ほんとありがとうな!レン、ほんとに大好き……」
『ううん、ペパーこそありがとうね』
料理すっごく美味しかったよ、と言ったら「毎日でも作ってやる」と返ってきた。プロポーズか何かだろうか。
すり寄って来る彼の髪が肌に当たってくすぐったい。とりあえず、初めてのバレンタインは成功ってことで大丈夫かな。
「幸せ過ぎてデザート出すの忘れてた」と体を起こしたペパーと笑い合う。これからたくさん、バレンタイン以外でも思い出が作れたらいいね。
お正月も誕生日もクリスマスも、やれることは全部やろう。家族のいない寂しさを私が埋め切れるとは思ってないけど、できる限り力になってあげたい。この人は幸せになるべき人だと思ってるから。
ご機嫌で鼻歌を歌いながら冷蔵庫に向かう彼の後ろ姿を、私も幸せな気持ちで眺めていた。
きみとしあわせの隣に
(早速明日から学校に着けてくな!)
(そ、それはちょっと恥ずかしいかも…!!)
END.