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「やあレン、待ってたよ」
待ち合わせ時間の数分前に到着すると、待ち人はすでにその場に着いていた。
遠目でも分かるくらい背の高い彼はそれだけでも目立つのに、その整った容姿で余計に人の目を惹きやすい。通りすがりの人々がすれ違いざまに思わず振り返っているのが分かった。
『ごめんね、お待たせ!』
「大丈夫。まだ待ち合わせ時間にもなっていないよ。
それにキミはボクよりも支度が大変だっただろう?女の子は大変だって、トウコが言ってた」
「ボクもそれなりに大変だったけどね」と彼が着ている服の袖を持ち上げる。それは深い紫色の生地で、アクセントには朱色が使われていた。
ふわふわで長い後ろ髪は折り曲げるように束ねられ、いつもよりもややボリュームが控えめ。普段とは雰囲気が全く違う、見慣れない“浴衣”姿。
今日はNに誘われて、街の大きなお祭りに来ていた。
「レン、付き合ってくれてありがとう。今日のお祭り、ずっと楽しみにしていたんだ」
『わたしも、お祭り行けるのは嬉しいけど……。…その、トウヤくんとトウコちゃんは誘わなくて良かったの…?』
「うん。二人はまた別の機会に誘うよ。ここ以外でもお祭りはやるみたいだからね。
初めて行くならキミと、って決めてたから」
『そ、そっか……』
さらりと言いのけるNに頬が熱を帯びる。
特別な意味はないんだろうけど、恋人でもない人間に言うには少々刺激が強いというか、普通なら勘違いされても文句は言えないような言い回しだ。Nだから許されているだけで。
今日の「お祭りに一緒に行きたい」も、「揃って浴衣を着たい」も。Nにとっては「行ったことのない行事に参加してみたい」だけで、「着たことのない衣装を着てみたい」というだけ。
相手に私が選ばれたのは、私が彼と比較的親交があったから。それ以上でもそれ以下でもない。後でトウヤくんやトウコちゃんとも行く気があるみたいだし、私と同じように二人も浴衣を着るんだろうな。
深い意味がないことなんて最初から分かってたけど、それでもやっぱりちょっと辛いかな。本人にはバレないよう、心の中で溜め息をついた。
「わあ……すごい、中は思っていた以上に人が多いね。レン、はぐれないように手を繋いでいようか」
『え?…手を?』
「うん。そうすればはぐれないよ。さあ行こう」
すっと手を掬われてNが人混みへと歩み出す。
驚いている暇も返事をする暇もなく、物理的に引っ張られて体が傾いた。握られた手を振りほどくわけにもいかず、慌てて自分も砂利道を歩き始める。
…やっぱりちょっとじゃなくて、だいぶ辛いかもな。
今度は心の中ではなく実際に息を吐き出しながら、目をキラキラさせているであろう彼の背中を追い掛けた。
――
「いろんな物が売っているけど、どこで食べるんだい?」
『基本は食べ歩きだよ。それか、端に避けて立って食べるか』
「え?……それは初めての体験だ。刺激的でおもしろそうだね」
「何から食べたらいいかな」と、Nがキョロキョロと辺りを見回す。
彼にとっては生まれて初めてのお祭り。この人の場合はそもそも“お祭り”が何なのかもよく分かっていないと思う。おそらく売っているものも見たことないものが多くて、どんな食べ物なのかもよく分かっていないんじゃないかと。
案の定「キミのおすすめは?」と質問が飛んできて、とりあえずNが何が好きなのかを探るところから始めた。
手始めにすぐ近くに売っていたたこ焼きを食べて、じゃがバターを食べて、わたあめを食べて、りんご飴を食べて。案外何でも食べられるらしい彼は、どれも「おいしい」と笑顔で頬張っていた。
食べ物以外の屋台にも寄ってみようと射的をやってみたけど、結局何も取れず。その代わりと言ってはなんだけど、二人してお面を買った。
彼と仲の良いゾロアークを模したお面は、今日の浴衣の色によく似合う。
私はミミロルを選んだけど、ちょっと可愛すぎたかな。