HappyHalloween!

 



『サボも仮装して遊びに来てね』




咲来にそう言われたのは一週間前のこと。
今日はみんなで集まって、各自思い思いの仮装をしてのハロウィンパーティ。

おれは彼女の咲来と弟のルフィ、同い年で兄弟のエースと一緒に参加することになった。
ルフィは海賊、エースは狼男、おれは吸血鬼。
普段なら絶対着ないような衣装を身にまとって会場に足を運ぶ。




『エースとルフィも来てくれたんだ!』




咲来は先輩のナミから頼まれてパーティ運営のお手伝い。仕事中の咲来におれらが会いに行くというような形になった。
咲来を探しながら歩いて、数分後に人混みの中で見つけて声をかける。

こちらに気付いた彼女は、お菓子が入った箱を抱えながらやって来た。




「トリックオアトリート!咲来!」


『ふふ。はい、お菓子よルフィ』


「さんきゅ!なあ咲来、それ何のカッコだ?」


『これ?アリスっていうの。御伽噺の女の子の衣装よ』




駆け寄ったルフィに箱の中のお菓子を手渡す咲来。中身はカップケーキのようだ。
衣装について尋ねられた咲来はそのままルフィに説明を始める。




「あの服ってサボが選んだんだよな?」


「ん?ああ、そうだけど」


「思ったより清楚だな。おれはもっとこう…露出が激しいやつかと」


「…お前と一緒にすんなよ」




会話に花を咲かす咲来達のそばで、隣のエースが小さな声でそう言った。

今日の咲来の服はおれが一緒に買いに行ったもの。
白いタイツにひざが隠れるくらいの長さのふわっとした水色のスカート。
頭にはカチューシャ、胸元には同じ色のリボン。どれもよく似合っている。


足はタイツで見えないし、スカートも長い。襟も上までボタンできっちり締まるタイプだし、胸元の露出もない。
人の彼女に何を期待してるんだか、とりあえずエースは軽く叩いておいた。




「こんな誰が来てるんだかわからないとこで露出多い服なんて着させられるかよ。襲われでもしたらどうするんだ」


「…あー、そういう意味?じゃあ本音はミニスカ魔女っ子?」


「はっ倒すぞお前。咲来はどんな服着ても可愛いに決まってんだろ」


「うーん、そりゃ一理あるな」




「アリスな咲来も超可愛い」と言いながら咲来を舐め回すように見るエースをもう一回殴っておく。だから人の彼女に何をする気なんだお前は。お前みたいなのがいるからミニスカ魔女っ子なんてさせられないんだ。




「(ミニスカ魔女っ子な咲来なんて絶対可愛いに決まってる……)」


『二人はお菓子はいらないの?』


「おっ!いるいる!トリックオアトリート!」


『はいどうぞ』


「サンキュー咲来!…ってルフィお前どんだけ貰ってんだよ!」


『たくさんほしいって言うから…。サボは?』




急に話を振られてはっとする。脳内で咲来を着せ替えている場合ではなかった。


一人で5個も6個もお菓子の袋を持っているルフィはどうやら咲来にせがんだ様子。
首を傾げて聞いてくる咲来に、「今はいい」と短く返事をする。




『そう?無くなっちゃうかもよ?』


「うん、その時はその時かな」


「咲来ー!こっち手伝ってー!」


『はーい!じゃあみんな、楽しんでいってね!』


「うん、また後で」




ナミに呼ばれて駆けていく咲来を笑顔で見送る。
隣でむしゃむしゃと貰ったケーキを頬張っているエースが不思議そうにこちらを見てきた。




「何で貰わなかったんだ?お前甘いモン嫌いだったっけ?」


「そんなことないさ。大好きとは言わないけど、普通に食べる」


「腹いっぱいか?」


「イヤ………せっかくのハロウィンだろ?」


「…サボさーん、悪い顔してるー」




眉間にシワを寄せるエースに、「別にそんな顔してないよ」と微笑んでおいた。




――




『サボ!』


「咲来、お疲れ様」




会場を回るだけ回ってやることも特になくなり、一旦家に帰ったおれ達。
咲来を迎えに行くべく、パーティの終了時間に合わせて家を出る。

もう衣装も脱いで普段着に着替えたのだが、この会場に来るとどうも浮いてしまって仕方ない。




「あとは着替えて帰るだけ?」


『うん、そうだよ』




まだアリスの格好をしている咲来はこれから着替えをするらしい。
良いタイミングだった。




「会場じゃゆっくり見れなかったから……今、見せて」




まだ騒がしさの残る会場の裏側。目線の高さを合わすように屈めば咲来が少し頬を染めて頷く。
さっきは人が多くて咲来も仕事で動いてたから、じっくり見れるのは今しかない。




『サボは着替えちゃったの?』


「うん、動きづらかったし迎えに行くまで時間があったから」


『…サボのもゆっくり見たかったのに』


「おれ?おれのは別に見ても面白くないだろ?」




照れ隠しなのか、やけによく喋る咲来。視線がきょろきょろして落ち着かない。
一通り眺めて、最後に「かわいい」と言いながら口付ける。




「そういえばおれ、お菓子貰わなかったな」


『あれ、貰わなかったの?』


「うん、咲来からは貰ってない」




その辺で勝手に配っていたものとか、スタッフ側から声をかけてきた時は貰ったけど咲来からは貰っていない。
明らかに仕事終わりでお菓子なんてもう持ってないこの状況を選んだのももちろんわざと。

察したのか、じりっと一歩下がった咲来の後ろは壁。




『……それで貰わなかったの?』


「うん」


『…、もう』




少し呆れたような、そんな感じの声色と表情。
「変だと思ったの」と続ける彼女を壁と自分の間に閉じ込める。




『サボって別に甘いもの食べなかった記憶ないもん…』


「ふふ、せっかくだから楽しまなきゃなって」


『楽しみ方おかしくない?』


「おれは今日これが一番楽しみだったけど。…嫌?」




彼女の顎を指で軽く持ち上げる。目の前に大きな咲来の瞳。
おれの質問には彼女は何も言わず、ただただおれを見つめる。それを無言の了承だと判断した。


ゆっくりと目を閉じた咲来の唇を、「トリックオアトリート」と小さく呟いてから自分のそれで塞いだ。






HappyHalloween


(ハロウィンじゃなくてもサボは悪戯してくるじゃん)
(まあ、そんなこと言わずに)





END.