ヘルプミー! 2

 


ローとケンカした。


何でこんなことになったんだろうと考えてはみたけど、どうも最終的には私が悪い気がする。
あの日何故かは知らないがイライラしていたらしいローにタイミング悪く話しかけてしまったらしく、いつも以上に低い声で返事をされた。放っておけばいいものを、どうにかしたかったらしい私は彼に何かあったのかしつこく聞いて、終いには「何でもねえって言ってんだろ」と怒鳴られる始末。

しかも反射的に「何よ人が心配してるのに」なんて返してしまって、状況は最悪。
結局口も聞かないまま三日が経った。




『(寂しい、なあ)』




誰もいない家で項垂れる。なんであんな言い方しかできなかったのだろう、ローに対してあれがアウトな返しだったことくらいわかっていたはずなのに。

謝るにしても、どこかで向こうも悪いと思っているのか本人を目の前にするとどうもダメだ。
メールで、とも思ったがやっぱり直接謝るべきだろう。


そんなことを考えていた時だった。




『――!』




突然鳴り出したケータイ。着信音ですぐにローだとわかった。
ほんの一瞬、本当に一瞬だけ躊躇ったけど、急いで通話ボタンを押す。




《……咲来?》


『ロー…、……』


《今、家の前にいる》


『は!?』


《いるなら降りて来い。いないなら……》


『い、いる!ちょっと待ってて…!』




忙しなく通話は終了して、階段を駆け下りる。
鏡で身だしなみをチェックして、ドアを押し開けた。




『ロー!』


「………」


『…え、なに、』




ひどく久しぶりに感じたローは相変わらず、綺麗な顔立ちに無愛想の塊みたいな表情で。
かと思えば無言で押し付けられたのは何やら大きな袋。




『……、これ…』


「……」




大きさの割にやたら軽いそれを開けてみれば、出てきたのは白くて大きなクマのぬいぐるみ。
なんとなく見覚えがあって、記憶を辿る。そう確か、二週間ほど前に近所のゲームセンターで見かけた。




『ローが、取ったの…?』


「…その、」


『…?』


「この前は、悪かった」


『!』


「…それだけだ」




常にかぶっているお気に入りの帽子を引っ張って顔を隠す仕草。それが決まってバツが悪い時にするものだってことは知っている。




『くれるの?』


「ああ」


『…一人で取ってたの?』


「………」


『私のために?』


「……、」


『ぷ』


「……笑うな」


『ふふ』




ぬいぐるみを取り出して、眺めて。これをあのローが、わざわざ普段見向きもしないゲームセンターで、一人で。私と仲直りするために。
取っているときどんな顔をしていたのだろう。普段やらないから、実は案外苦戦していたりして。取った後、店員さんに袋に入れてもらったのだろうか。

考えれば考えるほど笑ってしまって仕方ない。背の高いローを見上げたら耳まで真っ赤で、心の底から愛おしいと思った。




『ありがとう、すっごく嬉しい。私もごめんなさい、あんなこと言うつもりじゃなかったの』


「…知ってる」


『ねえロー…時間、ある?』


「なくはないが?」


『上がってって。…離れたくない』


「……!」




いつもだったら絶対言わないようなセリフ。熱くなった顔を隠すものがなくて、持っていたぬいぐるみを抱きしめて顔を埋めた。




「…そこはそいつじゃなくておれにしろ」


『ぬいぐるみに妬いちゃう?』


「バカ言うな」


『……ねえロー、寂しかった』


「…、お前本当に覚悟しとけよ……?」




「入るぞ」と手を引かれる。あ、久しぶりの感覚、なんて。
ぎゅっと手を握ればローは少し驚いたような顔をして、でもすぐに握り返してくれて。


反対側の腕に抱えられたクマは、唇と同時にローに奪われた。







ヘルプミー! 2


(ちょ…返してよ、それ私のくまさん!)
(…今は邪魔だ)






END.