メランコリックオレンジ

 



サボはモテる。


何でモテるかって言われてもモテるものはモテるとしか言いようがない。
というより、必然的にモテるのだ、サボは。

まず見た目。誰が見ても“綺麗”だと言うと思う。見た目が良いこと以上に人間インパクトの強いものはない。
高い身長も相まってとにかく綺麗なのだ。細いし、鼻も高いし、全体的に整っている。

そして何より優しい。
誰に対してもそうだ。気が良くて、年齢関係なく男女問わず誰からでも好かれるタイプ。
これに加えて運動も勉強もできるのだから、むしろモテない方がおかしい。




「サボ君は今日も後輩ちゃんから大人気?」


『…そのようで』




クラスメイトがやった視線の先で、後輩と思われる女の子数名に囲まれてるのが私の彼氏。
別に今日に限った話ではない。毎日こんな感じだ。
付き合う前からこんな光景には何回も出くわしてきた。彼女になってからしばらくは気にしていたけど、今となってはいちいち気に留める気もしない。そんなことしたってキリがないのだ。


午前の授業が終わってこれからお昼だというのに、あの人は多分“勉強を教えて欲しい”とか適当な口実を作って会いに来たあの女の子たちの相手をするのだろう。
昼ご飯を一緒に食べようかと思っていたが仕方ない、時間もかかりそうだし先に食堂へ行ってしまおうか。

そう思っていた矢先。




「あー!咲来!」


『ルフィ』


「よ、咲来」




廊下から自分を呼ぶ声がして振り返る。
見ればいたのはサボの弟ルフィと、サボと同い年で同じくルフィの兄エース。
エースは同学年で元から知っていて、ルフィは学年が違うけどサボを通して知り合った。




「咲来も後輩ちゃんから人気じゃん」


『ルフィ限定ね』


「咲来!おれ今からエースと食堂行くんだ!咲来も一緒に飯食わねえ!?」


『うん、行こうかな』


「よっしゃー!!」




人懐っこいルフィはすぐに私にも懐いてくれて、今は私もルフィが可愛くて仕方ない。
上の学年のクラスでも遠慮なくずかずかルフィが教室に入ってきて、それにエースも続く。

カバンを肩にかけた瞬間、ルフィは「早く早く!」とニコニコしながら私の手を引いて歩く。
その隣でエースが呆れたように「悪いなァ」と頭を掻いた。




「ルフィが相変わらずうるさくて…咲来大好きでよ」


『ふふ、嬉しいから良いよ』


「にしてもお前手繋ぐこたァねえだろ……」


「んっ?だめか?」




ルフィが食いしん坊なのは前からよく知っている。早く食堂に行ってご飯が食べたいのだろう。

エースに注意されて首を傾げるルフィに、「大丈夫だよ」と言おうとして口を開いた。




『……サボ?』


「ルフィ。咲来は、お、れ、の。」




瞬間、間を割くようにして入ってきたのがさっきまで教室の端にいたサボだった。




「あれ?サボも来るのか?」


「なんだよ、咲来のこと誘ったのにおれはダメなのか?」


「ダメじゃねえけど。だってサボさっきまで違う奴らと話してたから、だから咲来とご飯食べようって」


「咲来を持ってくのはおれに許可取ってからにしなさい」


「咲来はサボだけのものじゃねえもんー」


「………」




割り込んできたサボにルフィと繋がれていた手を離される。
ルフィの言い分に、いつも人当たり良くニコニコしているサボが珍しくムッとしていた。




『まーまー、みんなで一緒に食べようよ』


「そうだ!早くメシ!!行くぞサボ!!」


「おい、引っ張るなって!」




どことなくいつもと違うサボに気付いてるのは私とエースだけだったのだろう。
仕切り直した私の言葉を皮切りに、ルフィは何も気にする様子なくサボの腕を引っ張って食堂目指して駆け出した。




――




『…ふうん』




放課後。誰もいなくなった教室にサボと二人きり。

あれ以降ずっとご機嫌斜めだった彼に理由を聞いてみた。
お昼頃から機嫌悪そうだね、と。弟大好きなお兄ちゃんだから、普段なら嬉しそうにしてるのに。
彼が周りから見てわかるくらい不機嫌なことなんて滅多にない。


サボは自分の席で机に項垂れながら、彼の目の前の席に後ろ向きになって座っている私に小さな声で短く返事をした。
ルフィに嫉妬した、と。




『サボも妬くことあるんだね、知らなかった』


「咲来が鈍いだけだよ……」


『わたしが?』




完全に机に伏せてしまった彼の髪をいじる。くるくるしているのに指通りの良い金髪。
まだ顔は上げてくれそうにない。




「咲来ってば、おれが女の子に囲まれてても放置してどっか行っちゃうし」


『んー…』


「ルフィに手繋がれてもそのままにするし」


『それはルフィだから…』


「ルフィだって男だろ。…咲来が他の男と手繋いでるのなんて見たくない」




突っ伏しているせいか声がくぐもって聞こえる。
昼間の、後輩に勉強を教えるデキるイケメンな先輩とはまるで別人のようだった。




「もうおれのこと、男として見てない?」


『見てなかったら付き合ってないよ』


「じゃあなんで妬いてくれないの」


『別に妬いてないんじゃなくてー…妬いても仕方ないっていうか……』


「仕方なくない。おれもっと咲来に意識されたい、おればっかり妬いてて寂しいよ…」




少しだけ顔を上げた彼と目が合う。こんな弱気なことを言うサボを知っているのは他に誰がいるのだろう。
窓から入る夕日で赤く照らされた彼の頭を軽く撫でた。




『…普段もそんなこと思ってたの』


「思ってた」


『言ってくれればいいのに』


「咲来に、女々しいとか思われるのイヤだった」


『まあ、あの優秀で女子からも大人気なサボくんにしては意外かなあ』


「…咲来にしかこんなこと言わないよ」




恥ずかしかったのか、再び机に突っ伏す彼。
寄ってくる女の子を断らずわざわざ構ってるのも、私に妬いて欲しかったんだと彼は吐いた。
結果的にそれは私が妬くのを諦めるという正反対のものになってしまったけれど。

自分の腕に顔を埋めるサボの耳元に口付ける。
今日の彼が彼らしくないから、私も普段しないことをしてみようか。




『ねえサボ……キスしたら機嫌直してくれる?』


「…いっぱいして」




言ったこともないような言葉に、聞いたことのない返事が返ってくる。


ようやく顔を上げた彼の唇に、ゆっくりと自分のそれを押し付けた。








(憂鬱なんて、夕日に溶かしてしまえばいい)




END.