すでに受け取り済み
「ちょっと来て欲しい」と、まだ今日は朝起きて飯を食べたくらいのことしかしていないのに早々に呼び出しを食らった。
『じゃーん!』
呼び出されたのはキッチンの隅、冷蔵庫付近にある作業台の前。呼び出した本人は何やらご機嫌な様子で、作業台の上に載っていたものを腕を広げるような仕草と共におれに見せびらかした。
「…これは?」
『ケーキ!わたしが作ったの!』
「……今日は…、……ああ…」
普段料理の担当でもないこいつが理由もなしにこんなものを用意するはずがない。今日は何の日だと、冷蔵庫に貼ってあったカレンダーに目を向ける。
目立つように大きく書かれた月の数字と、赤いペンで分かりやすく囲ってある今日の日付。
『ロー、お誕生日おめでとう!』
おれの誕生日、だった。
『どうせ忘れてたんでしょ?ローってば何にも言わないんだから!』
「別に興味もねェよ……」
『そう言うと思ったので!作ってみた!』
プロじゃないからそんなに凄いものは作れないけど、と咲来が肩を竦めて苦笑いする。
ホールにしてはやや小ぶりに思えるそれは、普通の白い生クリームと切ったイチゴで飾られたシンプルなものだった。真ん中にはメッセージの書かれたプレートが載っている。
そもそもこの船にはコックが乗っているからこいつが料理をすることはないし、しているのを見たこともない。だから彼女にこんなものを作る能力があったのかと、まず最初に思ったのはそこだった。そりゃあプロのと比べれば見劣りするだろうが、だからと言って決して下手ではない。むしろ素人にしては上手い部類に入ると思う。
物珍しさとまだ残っていた眠気でぼうっとその“ケーキ”を眺めていると、咲来が急に何かを思い出したかのように喋り始めた。
『あ!ローってパン苦手だからもしかしてケーキもダメ…だったかな……?』
「……、いや?」
『ていうか甘いものもそんなに食べないよね…その、これはわたしが勝手に作ったやつで、もし良かったら今日の夕飯のデザートにでもどうかなって思ったんだけど…。無理して食べてほしいわけじゃないし、食べれなさそうならローに欲しいもの聞いてこの後買ってこようかなって……』
初めの威勢の良さは何処へやら、ベラベラ喋る割にはだんだんと語尾が小さくなっていく咲来はおれの鈍い反応を見て焦っているようだった。おれが朝はスロースタートなことも、リアクションが他人に比べて薄いこともよく知っているくせに。
一応最初の質問には答えたつもりだったが、どうも上手く伝わっていないらしい。
…なるほど、やたらと早めにネタばらしをしてきたのはこれが駄目だったときの対処をするためか。確かに、後でクルーのいる中で出されて食べられませんじゃお互いに気まずい。
しかし残念ながら、その代替案もおれが相手だと難しいようだ。
「欲しいもの……特にねェな。お前らが生きて笑っててくれりゃ、それで十分だ」
『…ローって、たまに船長っぽいこと言うよね』
「おれは元から船長なハズだが?」
ボソリと聞こえた一言に軽く咲来の額を小突く。おれはお前がこの船に乗るずっと前から船長だが。
小突かれた咲来といえば、一瞬痛がる素振りをしたもののその後は黙り込んでしまった。おれの「特に欲しいものがない」に困っているのだろう。その顔を見るに、そう返される予想はついていたみたいだが。
咲来の言う通り、甘いものは普段好き好んでまでは食べない。かと言ってプレゼントに何が欲しいかと聞かれても、特に何も思い浮かばない。強いて言うなら、「その気持ちだけで十分」。
でもそれではケーキまで用意していたこいつはきっと満足しないだろう。
少し眠気が飛んできた頭でぐるぐる考えて、最後にハァ、と溜息をひとつ吐いた。
「…咲来、ナイフとフォークを持ってこい」
『え?』
「これをあいつらの前で見せたら、絶対“分けてくれ”とか言われて取り合いになる。そうなったらおれの分はほぼゼロだ……だから今食べる。けど、全部食い切れる自信がねェからお前も手伝え」
片手でケーキの載った皿を持ち上げてからさっき朝食を食べていた部屋を指さす。咲来は三度ほど瞬きをして、その後にぱあっと顔を明るくした。
「待て咲来、行く前にこっちに来い」
『え?……!』
「…礼がまだだったな」
ちゅ、と軽く額に口付けてから咲来を離す。突然のことに咲来は一瞬固まって、でもすぐに照れたように笑った。
この先もお前のその顔が見れれば、おれはそれでいいのに。
もう一度心の中でそう思いながら、自分には不釣り合いな可愛らしいケーキと共にキッチンを後にした。
すでに受け取り済み
お前がそうとは思わなくても
(船長何いいもん食ってんですか!?)
(うるせェ。やらねェからあっち行け)
END.
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ぶっちゃけ夢主の出したものならたとえパンでも食べ切ってくれる