結果オーライ!






「エースーーー!!
もう11時だぞ!朝メシ食わねェのかーーー!?」




全ての始まりは、おれを起こしに来た弟の声だった。




――




「ウソ……だろ………?」




ベッドから少し離れた棚に置いてあった目覚まし時計。その針が示す時間を二度見した。いや、三度見した。
寝起きのせいですぐには頭が働かず、ワンテンポ遅れて現実を理解する。




「やーっと起きたかエース。お前今日出かけんじゃなかったっけ?何時から?」


「……く…」


「く?」


「九時半…に、待ち合わ、せ……」




おれが起きたのを確認して雨戸を開け始めるルフィ。途端に部屋に入ってくる日差しを見る限り太陽はもう天高く昇っている。

おれの魂が抜けたような返事に、ルフィは窓を閉めながら首を傾げた。




「はあ?んなのとっくに過ぎて………」


「……ッ!!!」




――最悪だ。

最悪中の最悪だ。できれば夢であって欲しかった。でも何度見ても時計の針は11時過ぎを示しているし、ルフィも同じように認識している。雑に手に取ったケータイ画面にも同じ時刻、その上に表示されてるのはあれだけドキドキしながら待っていた日付。そして着信が一件に新着メールが二通。何回確認したところで状況は最悪に変わりない。




「ルフィ!!悪ィおれ、飯要らねェ!!今すぐ家出る!!」


「は!?」




なぜ目覚ましは鳴らなかったのかとか、気付かなかっただけなのかとか、そんなのを考える暇もない。

飛び起きてケータイと荷物を引っ掴んで、礼も言わずに階段を駆け下りる。ルフィには悪いが後回しだ。
昨日のうちに荷物と着替えを準備しておいただけまだ良かったが、今この状況この時点ですでに終わってる。




「!?
くっそ!!何でこんなときに!!」




猛スピードで着替えを済ませて顔を洗ってあとは歯を磨いて家を出るだけ、そう思ってふと鏡を見れば盛大にハネていた髪の毛に思わず手が止まる。意味がわからない、普段も多少の寝癖はつくもののここまで酷くはない。なぜ今日に限ってこんななのだ、しかしこの髪型のまま出て行くのも気が引ける。学校くらいなら気にしないのに。




「帽子!帽子帽子!!」


「エース、夕飯どうするか後でメールしろよ!あと今度何か奢れ!!」


「わかった!悪ィ!鍵頼んだ!!」




いつもなら兄貴面しているとこだがそうも言ってられない。後のことを全部弟に任せてとりあえずバス停にダッシュ。

運良くすぐに来てくれたバスに乗り込んで、一息ついたところで恐る恐るケータイ画面を覗き込む。




「(もちろん咲来から……だよな………)」




未読メールの宛先を見れば、予想通りの名前が表示されてて。数ある女子の連絡先の中で唯一の特別な人。

来るだけで舞踊っていたメールが今はこんなにも恐ろしい。全て自業自得なのだけど。


しかし開くしか道はないし。暗い未来しかない気がするが仕方ない、全部自分が悪い。
覚悟を決めて決定ボタンを押した。ああ、さよならおれのハッピーライフ。




――




「(い、いた……!)」




ようやくたどり着いた待ち合わせ場所、目印にしていた時計台の下で一人周りを気にしている女の子。
遠目でも一瞬でそれが咲来だと分かって、ヘトヘトな体に鞭を打つ。

こんなに遅れたのにもかかわらず、奇跡的に彼女はその場所にちゃんといた。




「咲来、っ、…!ごめ、…ん……!!」


『おはようエースさん。…大丈夫?』




肩で息をしながらその場にへたり込む。体力はある方だがさすがに疲れた。

屈んで覗き込んでくる彼女の気配を感じたが、そのまま土下座の姿勢に直る。




「すみませんでした……!!」


『…あはは、大袈裟』




おかしそうにクスクス笑う咲来は怒ってはいなさそうで。
知らない人がどうしたんだろうねと、おれのことを話しながら近くを通り過ぎたのが聞こえた。


咲来との“初デート”。付き合っているわけではないから実際は違うのかもしれないけど、おれにとっては今日はそういう日になるはずだった。

学年はひとつ違ったけど授業で一緒になったのがきっかけで仲良くなって、気付いたら惚れてて。意を決してさりげなく一緒にどこか行かないかと持ちかけたらあっさりOK。仲の良い友達に報告したら「全然さりげなくなかったけど」と笑われた。


そして迎えた前日の夜、目が冴えて全然眠れなかったのが全ての原因。楽しみすぎて眠れないとかお前今何歳だよと、遠足前の小学生かよと。しかも寝坊して大遅刻とか、どんなテンプレだ。笑うにも笑えない。
男なら女の子より早く着いて待ってるくらいの余裕を見せるべきなのに、更に今回は自分から誘っておいてこんな結果。ありえない。自分が女だったらもうとっくに怒って家に帰ってる。




「ごめん、ほんとにごめん…。昨日おれ寝れなくて……」


『も、いいってば』




バスの中で開いたメール、一通目は「何時に着きそう?」。二通目は「買い物して待ってるね、着く時間分かったら連絡ください」。
結局おれが着いたのは昼前、待ち合わせ時間より二時間半も遅れてる。本当にありえない。それで怒らないとか咲来はなんて寛大なんだろう。

可愛い上に優しいなんてと、一人感動していれば。




『いいの、気にしないで。こうなるってなんとなくわかってたし、準備してたから』




──グサリ。
彼女の言葉が胸に刺さった。

ああもうこれ、完全に読まれてたし呆れられてるじゃねえか。おれの印象最悪に違いない。いっそのことこのまま地面に埋まりたい。




「うう…ほんとにごめん……。
あー…っと、咲来、これ……お詫び…に、ならねェ……な…」


『へ?……あら、わざわざありがとう!』


「いや、………」


『…?』




荷物と一緒に持ってきた自分に似合わないランキングナンバーワンな花柄でピンク色の紙袋を手に取る。中身はお菓子、咲来が好きだって言ってたチョコレート。本当は帰り際に「今日はありがとう」とちょっとかっこつけて渡そうと思ってたのに、まさかこんなことになるなんて。ほんとにもう、何でこうも上手くいかないのか。


顔を上げればここまできて初めてちゃんと目に映った咲来の姿に、思わず手が途中で止まった。




「………、咲来、かわいい……」


『…へっ!?』




受け取ると同時にぼっと赤くなる咲来。
いやだって、今の発言は完全に無意識だったけど、今日の咲来はいつもとなんか違う。

ふわふわした白のワンピースにレースをあしらったアウター、耳飾りは大きめで花がモチーフ。
髪型も普段は特に何もしていないのに今日は編み込んであって髪飾りもつけてる。よく見ればマニキュアまで塗って。




「すっげーかわいい…いや、いつもかわいいけどな!?」


『なっ……!…え、エースさんのがかわいいよ…』


「は?おれが?かわいい?」


『…うん、ほら』




褒めれば褒めるほどだんだん赤くなっていく咲来に打って変わって調子に乗っていれば、咲来は目線を合わせていたおれの髪の毛をちょこんとつまんだ。

最初こそ首を傾げたものの、そのままちょいちょいといじられてはっとする。
──おれ、そういえば帽子どうしたっけ。


視線を下にやれば地面にひっくり返ったままの帽子が目に入って、さっき謝った時に落ちたんだと理解したと同時に頬が熱くなった。




「〜〜〜っ!?
み、見なかったことにしてくれ!!」


『ふふ。急いでたのね』


「当たり前だろっ!」




かぶり直して顔を隠すように帽子を引っ張っても、おれより背の低い咲来からすればあんまり意味がない。

それでも笑いながら覗き込んでくる咲来が可愛くて、恥ずかしい代わりにこの顔見れるなら別にいいや、なんて。




「…ほんとごめん。今からでも遅くねェか?」


『まだお昼だよ。時間ならいっぱいある』


「咲来……怒ってねェの?」


『んー、まあ。ちょっと寂しかったけど』


「……悪ィ…。待っててくれてありがとな…」


『いいよ。
…そうね、エースさんじゃなかったら帰ってたな』


「え」


『あ、ほら見てあの列!』




本当だったら午前中に行く予定だったパンケーキのお店を彼女は指差して歩き出す。

ふわり、風に舞った髪の毛を押さえる咲来はすでに背を向けていて表情がわからない。




「おい咲来、今のどういう意味……!!」




行列目指して駆けていく咲来はこちらを一瞬振り向いて。でもおれの質問に答えてはくれなくて、代わりににへらと笑ってみせた。
足を止める様子のない彼女を慌てて追いかける。


おれのお先真っ暗な予想に反して楽しそうにする彼女に、こういうのをなんていうんだっけかと頭の隅で一人ぐるぐる考えた。






ーライ!
…と、言っていいものか


(でもわたし次もこうだったら帰るから)
(おう、次こそ………って、次!?)



END.




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おばかエースさん×いろいろお見通し夢主さんが書きたかったみたいです。

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