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彼女が俺の隣の席になったのは、まさに運命のそれだった。




「俺は松野家に生まれし次男、松野カラ松!
一目惚れだ。カラ松ガールになってくれないか?」


『…えっ?』




あの日の君の呆気にとられた顔を、今もよく覚えている。



――



「懲りねえなあ、カラ松」


「フッ、当然だろう?」




今日も留衣に赤いバラを一本プレゼントした。


放課後、授業が終わり部活に行く直前に留衣にバラを渡すのが俺の日課。
それを見ていたらしいクラスメイトの一人に声をかけられる。


学年が上がるのと同時に転校してきた留衣。
クラス替え直後の席順は学籍番号順だと決まっていたから、彼女の席も初めから決まっていた。


一番後ろ。俺の隣。


「新しい仲間が増えます」という先生の言葉を聞く前から、俺の視線は先生の横に立っていた彼女に釘付けだった。




「留衣は俺の贈る花を受け取ってくれる。つまり、可能性があるということだ!」


「…相変わらずポジティブで羨ましいよ」




毎日欠かさず贈り続けているバラは全部受け取って貰えている。
バラに添えた愛の言葉に関しては、すべて「ありがとう」という一言で片付けられているが。

口で言うよりも形に残る方が良いのかと思い時々ラブレターも書いてみるが、その返事もどうやらあの「ありがとう」に含まれているらしく、手紙を貰えたことはない。


留衣が俺のことをどう思っているのかは数ヶ月経った今でもわからないままだ。




「恋はアタック、アタック、アタックだ。返事を貰えない程度で諦める俺じゃない。
俺のこの留衣への溢れるラブが、いつか留衣に届いて花を咲かせるその時まで…」


「それ長くなるやつ?時間やばいから先に行ってるわ」


「…ん!?ま、待ってくれ!!」




両手を大きく広げ、王子様の衣装を着ている気分で天を仰ぐ。次の文化祭でやる劇の主役は間違いなく俺だ。そうに違いない。
お前もそう思うだろう?瞑っていた目を開けると、そこにすでに他人の影はなかった。慌てて周りを見渡す。

呆れたような声をした友人は、気がついたときにはドアに向かって歩いていた。



――



『これで100本目だね』




次の日。
バラを受け取った留衣が、ふとそんなことを言った。




「もうそんなになるのか?」


『そう。毎日くれるから、試しに数えてみてたんだけど』




手の中の赤いバラを留衣が器用にくるくる回す。
色白な彼女の肌と対照的な鮮やかな赤色は、愛を具現化したような色だ。
積もった想いは今日でついに100になったらしい。




『もう明日の分も用意してあったりする?』


「ああ!でも明日で切れるから、今日帰りに新しいのを…」


『買わなくていいよ』


「……、えっ?」




100を超えても俺はお前に愛を伝え続けよう。そう続けようとしていたのに。

ぴしゃりと言い放たれた言葉に、思わず言葉を詰まらせる。




「えっ…い、いらない…のか……?」


『うん。もうたくさんもらったから。
バラって高いでしょ?カラ松くん、バイトしてないって聞いてるし』


「お金の事なんていいんだ、俺は」


『…とにかく。もう大丈夫だから。
お花もらえて嬉しかったよ、ありがとう。じゃあわたし、この後買い物に行かなきゃいけないから』




「また明日ね」。
バラを手に持った留衣が教室から出ていく。


突然訪れた“終わり”に、俺はただその場に立ち尽くす以外になかった。






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END.