2






「…というわけなんだが、どう思う?」




次の日。
留衣に渡す最後のバラを手に、友人に昨日のことを話す。

「カラ松が落ち込んでるなんて珍しいじゃん」と声をかけてきたそいつは、一通り聞き終わったところで頭の後ろで両手を組んだ。




「それはまぁ…あれじゃん?
とりあえず受け取ってたけどまさか100本も渡してくるなんて思ってなくて、いい加減やめてほしいっていう?」


「うう…やはりそうだろうか……」




今まで受け取ってくれていたのは可能性があったからではなく、単に留衣の優しさだったのか。
俺が差し出すからなんとなく受け取っていただけで、ついにそれも面倒になってしまったというのか。

真意は分からないが、本人から面と向かって「もう要らない」と言われてしまった以上、いくらポジティブと言われている俺でも良い方向の考えが思いつかない。




「俺の想いは届かなかったのだろうか……」


「…それは届いてると思うけど。
問題は届くか届かないかじゃなくて、受け取って貰えるかじゃねえの?」


「受け取って…か…。結局留衣から返事は貰えなかったな……」


「でも“ありがとう”は言われたんだろ?」




――“ごめん”とは言われてないじゃん。


友人の言葉に顔を上げる。




「なんで要らないのかも本人に聞かないと分からねえじゃん。
どうせ最後のチャンスならはっきりフッて貰った方がいいんじゃね?」




「お前イタいことしか言わないから本気なのかどうか見てるこっちも分かんねえし」。

物言いはぶっきらぼうだったが、背中を押してくれていることはよく分かった。




「…お前の言う通りだ。
最後くらい、俺から留衣に返事を聞いてみる」


「そうそう。当たって砕けて来い!」


「砕けたくない!!」




バシンと背中を叩かれ、もつれた足でそのまま留衣の待つ教室に向かう。

今日で最後だ。返事が貰えないことを言い訳にして、ずるずると平行線のままを続けるのは。




「(逃げるのは止めだ)」




今日こそ、お前の返事を聞かせてくれ。




――




「留衣、ここは…」


『部室。今日は部活ないから空いてるの』




教室で留衣と合流した俺は、彼女に連れられて別の教室へと移動した。
入ったことのないその部屋は普段彼女が部活で使用している部屋らしい。
「今日は人がいないとこで話がしたかった」と言う彼女に心臓が音を立てるが、すぐにそれは勘違いだと考え直す。


そうだよな。他人をフるのだから、みんなで使う教室じゃやりづらいよな。誰か来たら気まずいもんな。
目を伏せ、持っていたバラを握り締める。


聞かなければ。
これで最後なのだから。




「…留衣、俺」


『それで話なんだけど、』




同時だった。
思わず顔を上げれば、留衣も驚いたような顔をしてこちらを見ている。




『ご、ごめん』


「い、いや…俺こそ。留衣から話してくれ」




彼女の方から切り出されるとは思っていなかった。俺からは言い出しにくいことだから気を遣ってくれているのだろうか。最後まで優しいんだな、留衣は。
それにしても全く、これが最後なのに俺は何をやっているんだ。落ち着け。
バクバクする胸を手で押さえながら、静かに深呼吸をひとつ。

焦る必要はない。わざわざ場所まで変えてくれたんだ。留衣は俺との関係を終わらせたくてそうしたんだろう。
この流れなら聞かずとも返事は貰えるはずだ。今までのようにバラを受け取って貰えるかは分からないが。




「(ああ、泣きそうだ)」




これを渡したら、この恋は終わるんだな。




『…カラ松くん?大丈夫?』


「え!?だ、大丈夫だ、大丈夫……」


『……。
カラ松くんって、バラの花言葉知ってる?』


「は、なことば…?」




留衣に覗き込まれ歪みだした視界に、これはまずいと思ったとき。
くるりと彼女は俺に背中を向けてそんなことを言い始めた。


バラの花言葉。
調べたことはない。




「分からない、が…イメージだけで言うなら、情熱とか愛とかだろうか…?」


『うん、あってるよ。赤いバラの花言葉がそんな感じ。
バラって色にも本数にも花言葉があるんだって』


「…そうなのか、知らなかった」




背中を向けた彼女の表情は見えない。この質問になんの意図があるのか。
突拍子に始まった話に次第に涙も落ち着いていく。目に留まったのは自分の手の中にある一輪の花だった。




「赤いバラを一本だとどういう意味になるのだろう?」


『本数で言うと、“一目惚れ”』


「ああ…それなら初めて留衣に渡したバラにピッタリだ」




もう三ヶ月以上前か。懐かしい。
目を細めていると、背を向けたままの留衣から小さく笑い声が聞こえた。




『一目惚れなんてさ、わたし信じられなかったよ』


「転校早々驚いただろうな。あの時の留衣の顔は今も覚えてる」


『びっくりしたよ。そんなこと言われたの人生で初めてだもん。
信じられなかったけど、今日までのカラ松くん見てたら…信じても良いかなって、思ってる』


「…信じて貰えなくても一目惚れは一目惚れだ」




それ以外に形容しようがない。
あの日渡したバラが俺の気持ちそのままの意味を持っていて良かった。
俺は知らずに渡していたけれど。




「今日のこれで確か…101本になるんだったな。こんな半端な本数に意味などないだろうか?」


『…あるよ。今日、それを話そうと思ったの』


「? そうだったのか」




バラの花言葉の話をするために俺をここへ?

もう受け取れない理由とか俺への返事とか、そういうものをしに来たのだとばかり思っていたのだが。
それともそれに関係のある話なのだろうか。疑問はあるが、ひとまず話の続きを待つ。


ここまでずっと俺に背を向けていた留衣が、スマホを片手にこちらを向いた。




『これがね、バラ101本の花言葉』


「……、…!」


『もしカラ松くんが…今からわたしにこれを言ってくれるんだったら』




見せられた画面に並んだ文字列。
たった五文字のその言葉が、俺の脳内に反響する。




『カラ松くんの“一目惚れ”を信じてみたいかなって…思ってる』




手の中のバラは相変わらず愛の色で美しい。




『……どうかな?』


「もちろん、言うとも」




握っていたバラを留衣の前に突き出す。

これが俺の気持ちで、お前がそれを信じてくれるのなら。






 2


(101本目の愛の花で、信じて貰えただろうか?)





END.