──
「そう軽々しくベッドの誘いに乗るのは如何なものかと思うが」
『お昼寝でしょ、お・ひ・る・ね。
変な言い方しないでよね、ライ』
二人組で行動をすることが多いからか、このセーフハウスに設けられた寝室にはシングルのベッドが間を空けて二つ。
そのうちの片方にやけにニコニコしているスコッチを下ろす。上機嫌らしい。
並んで寝れるようにもう片方のベッドをずらして隙間を埋めてから寝転がると、両脇にバーボンとスコッチ、スコッチを挟んだ向こう側にライが寝転がった。
視界には見慣れない天井。窓からはまだ高く昇っている陽の光が差し込む。
確かに、これは平和ボケするかも。
「昼寝なんていつぶりだろうな〜」
「だんだん僕も眠たくなってきました…」
『寝なよ。どうせ普段あんまり寝てないでしょ』
「ん…でもせっかくの機会だから……」
「アマレットとお喋りしたい」。
隣で甘えた声を出しながら大きな目を擦るバーボン。こういうのをあざといって言うんだろうな、と彼を見ながら思う。
絶対自分の顔が他人にウケるのを知っててやってるやつだ。
「アマレット、いっつもジンと話してるから。僕もアマレットと仲良くなりたかったのに」
『…その姿だとまんまとトラップに引っ掛かりそうだからやめてくれないかな…』
「ふふ」
引っ掛かってくれて良いんですよ、なんて。
見た目は幼いのにどこか妖しく笑うバーボンの頬を引っ張ったら、「いひゃい」と小さな体で抵抗された。
「…アマレットって、うちの爆発物担当ですよね?」
『まあ、そうなるのかな』
「その腕前を拝見したことは間接的にしかないですが…」
──余程ジンからの信頼が厚いんですね。
バーボンの丁寧な口調は小さくなっても変わらない。
「このセーフハウス、監視カメラも盗聴器の類もないでしょう?」
「外した跡があったのでもともとは付いていたみたいですが」。
いつの間に調べたのやら。
当たり前のように言い放つ彼の噂は私の耳にも届いている。
『ベル姉が外したんじゃない。
わたし達が今日ここで過ごすの知ってたから…わたしがジンの言い付けを守ることは分かってるだろうし』
「…ジンのこと、慕ってるんですね」
『そうね。…悪いけどあんまり深くは喋れないよ、探り屋さん?』
「!」
探り屋バーボン──短期間で幹部までのし上がった彼は周りからそう呼ばれている。
見た目は可愛いけど、つい先程“組織に馴染みたい”と言っていた人間だ。
私が彼に対して初めて見せた警戒の色に、彼は少しばかり悲しそうな顔をした。
「僕のこと、まだ信用出来ませんか?」
『…ごめんね』
「……良いんです。僕はまだアマレットと比べたら入って日が浅いでしょうから」
子供になっても変わらない、綺麗な顔立ち。こんな組織にいては勿体ない、モデルさんのような顔をしている彼。
そのブロンドの髪を撫でたら、こちらをまっすぐ見つめる青い瞳が揺れた気がした。
『…どうしたの?』
「いえ……貴方の手が、犯罪者とは思えないくらい優しいので…」
どこか泣きそうにも見える彼は、私の手を取ると大事そうにその小さな両手で包み込んだ。
私に誰かを重ねているのか。
そう思ったのは、女の勘。
「…なあ、アマレットってなんでこの組織にいるんだ?」
不意に背中側から声がして振り向く。
仰向けのまま、首だけ捻ってこちらを見るスコッチが目に入った。
「アマレット、過ごせば過ごすほどうちの人間っぽくないなって。
今まであんまり話したことなかったけど、仕事終わりに飯作ってくれたり汚れた服綺麗にしてくれたりしてたじゃん?
今日のアマレット見てたら、改めてそう思っちゃったっていうか」
「ジンにバラの花束をあげてたこともあったな…」
「あったあった、俺も見た。二度見した記憶ある」
掃除に洗濯、食事の準備と片付け。日常生活の家事は大方私が担当している。
そのせいで雑用係として認識されている自覚はあるが、この三人も例外ではなかったらしい。
バラの花束は誕生日にジンにあげたものだ。あげたというか、押し付けたに近いけど。
「もしかして…ジンと出来てんのか?」
『んな訳ないでしょ…』
とんでもないことを言い始めるスコッチに軽く溜息。あまり話したことがなかったから無理もないが。
ジンは家族のいない私にとってお兄ちゃんみたいなものだ。もともと私はジンに拾ってもらって、ベル姉に育てて貰ったからここにいる。
あまり他人には話したことのない経緯を軽く話すと、スコッチがこちらを向くようにごろんと寝返りした。
「なるほどね…道理であの二人と仲がいいわけだ…」
「それでよくそんな風に育ったな…あの二人が育ての親なら得体の知れないものが出来上がる気がするが」
『アハハ…わたし実はね、“それ”担当なの。
どう?普通の女の子に見える?』
「…!」
こちらを向いたスコッチの頬を撫でる。
ジンやベル姉を筆頭に、見るからに迫力のある人間が揃っているこの組織。今でこそ可愛くなっているが普段ならこの三人もそうだ。
その中で明らかに浮いているであろう私は、“目立たない”を目的に育てられた。
そういう意味では成功と言えると思う。
「…そういうことでしたか……」
「油断も隙もないな…」
『でも騙してるつもりもないよ。わたし元々こんな性格だし…雑用も好きでやってるの』
“目立たない”のは苦ではなかった。
むしろ自分に合っていた。裏方で働く方が気が楽で良かったし、ジンにもそう認識されていることだろう。
『これでも一応うちの人間だから、あんまりベラベラ話せることはないけど…ひとつだけ、わたしのとっておき教えてあげる』
「…とっておき?」
私の言葉を反復してぱちくりと大きな目を瞬いたスコッチに、首にかけていたペンダントのトップだけを外して手渡す。
鎖が長い上に服の中に入れているから、“それ”は普段誰かの目に触れることはない。
受け取ったキラキラした四角いものをスコッチが電灯にかざすと、他の二人も興味深そうに目を向けた。
「何だ?これ…」
『簡単に言えば手榴弾。サイズは小さいけど、一般的なやつの5倍くらいの威力があるよ』
「爆弾!?」
あからさまに慌てた隣の人に「そう簡単に爆発しないから安心して」と笑った。
肌身離さず付けているから、何かの手違いで爆発されたらこちらとしてもたまったものではない。さすがにその辺りは考えてある。
『手榴弾って言っても人に投げるためじゃない。
何かあったらわたしはこれで死ぬの。ジンに褒められたくて一生懸命作った、この爆弾で』
なるべく爆弾に見えない爆弾を。
彼の注文を受けて自分なりにいろいろ工夫して出来上がったその爆弾はジンには好評だった。
見た目の割に威力が強いから、この組織にとっては実用的。実用的であるということは、この手が血に塗れていることを意味していた。
バーボンの言うような、優しい手では決してない。
『違うとこで出会ってたら…もう少し違う形で、みんなと仲良くなれたかもしれないのにね』
こんなふうに、何気ない日常を過ごせる世界線が──もしかしたら、どこかにあったのかもしれない。
本当の意味で、普通の女の子として三人と知り合う世界が。
目を閉じる。所詮は夢の話。
現実の私達は、犯罪者組織にいる互いに本当の名前すら知らない上辺だけの“仲間”。
『せっかくのお昼寝なのに無駄な話しちゃったね。…おやすみなさい』
静まり返った部屋の中、自分の声だけが響く。
今日くらいは、良い夢を。
ウィスキートリオの世話をする 中編
(いっそこのまま、)
END.