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「そうだ咲来、買い出しに行かねェか?」




ローさんの尋問、いや聞き取り調査が終わって食堂へと戻ろうとしたところ。
唐突にそう言ってきたのは隣で歩いていたエースさん。




『買い出し?』


「ああ、咲来欲しいものいっぱいあるだろ。
しばらくこの船にいるなら、今買っておかねえと今日明日にでも困るぞ?」




「おれは荷物持ってるし男だから困らねえけど」と続ける彼。
人が良いというか、大物だけあるというか。それとも単に世話焼きなのか、困っている人は放っておけないタイプなのか。気を遣って頂けるのはありがたいけども、その提案を丸呑みにするのは少々気が引ける。




『でもわたし、お金持ってないから……』


「それくらいやるって。
おれが金も持たずに海走ってると思うか?」


『……、…うん』


「えっ」




正直に頷いたらエースさんは微妙な顔をした。まさかそう返されるとは思っていなかったのだろう。
反対側にいたローさんは一人で含み笑い。

しかしながら、漫画では食い逃げばかりやっているのでこの人お金ないのかなと思っても読者的には仕方ないのである。むしろ食い逃げしてない場面があっただろうか。理由を話したら「あれは払うのを忘れただけだ」と言われたが真偽は分からない。




「…買い出しはいいが、先にクルーに挨拶しろ。それからだ」


『うん、もちろん』




船員さん達に挨拶。
これからしばらくお世話になるのだ、当然だろう。漫画に出てこなかった船員さんの名前も早いところ覚えてしまわなければ。




『……? エースさん?』


「…!!?
あ、ああ咲来、どうした?」


『何か考え事?』


「え!?あ、うん……何が必要かなと思ってよ」




ふと視線をやった先で必死に唸るエースさんはどうやら必要なものを思い浮かべていたみたいで。
一緒にいてくれることはもちろんだが、何より彼の思考の中に私がいるという事実が嬉しい。
思わず手を取れば少し驚いた顔をしてから握り返してくれた。このまま行ったらまたシャチに怒られるだろうか。




「…(とりあえずTシャツ一枚は何とかしねェと、主に夜におれの身が持たねェ……)」




彼の考えていることなんて、分かるはずもなく。




――




「さて……お前らに紹介する奴がいる」


「「待ってました!!」」




ヒューヒュー!と盛り上がる甲板、その一番前にローさんによって押し出される私。
改めて見渡した船員さんはローさんを含めて全員で20人ほど。授業の少人数クラスで発表でもするような感じだろうか。
大体がそれなりに年上のお兄さん達、おまけに人外混じり。
何を言おうか考えている間にここに来てしまった私は、結局何も考えずじまいで。

こうなったらやるしかない、きっとなるようになる、はず。




『今日からお世話になります、天羽咲来です!
いつまでいるか分かりませんが、役に立てるよう頑張りますので…えっと、……皆さんのことはここに来る前からずっと好きでした、仲良くしてやってください!』




もともと人前に出るのは得意でないため案の定頭が真っ白になり、とりあえず頭に即興で浮かんだ言葉を口にする。
途端、シン、と湧きあがっていた船員さんが静まった。


何かまずいことでも言ったかなと不安になった頃に騒ぎはまた大きくなって。




「…おい、聞いたか?天使からの告白」


「ああ聞いたぞ、もちろん聞いた。
咲来ちゃんはここに来る前からおれらのことを想っていてくれたらしい」


『…う、』


「「かーわいいなァ……。」」


「おいお前ら、調子に乗ンなよ!!」


「火拳が妬いてるぞー!お前からは何かねェのかー!?」


「はああ!?」




つい口から出た本心に反応されて顔が熱くなる。
ローさん含め、ハートの海賊団が好きだったのは事実なのだけど。

次に標的となったのは私を隠すように腕の中におさめたエースさんだった。




「仕方ねェな…。
知ってる奴もいるかもしれねェが、おれはポートガス・D・エース!
いいかお前ら!咲来に何かしたら燃やすからな!!」


「咲来ちゃんと仲良くしてえのにガードが怖すぎるぞ!
船長も何か言ってやってくださいよ!」


「……火拳屋、燃やすのはやめろ。クルーなら代わりにおれがバラしといてやる」


「「そこなんですか!?」」




カバーにもフォローにもなってないローさんの発言に船員さん達が突っ込む。
今日も仲良しだなあと私はエースさんの腕の中でのんびり。だいぶ慣れたその窮屈さが心地良い。




「んじゃ、おれは今から咲来と買い出し行ってくっから!」


「いきなりデートだと!?汚ェぞ火拳!!」


「ばっ…そんなんじゃねェ!!」


『デート……!?』


「「え?」」




ひらひらと手を振って私を連れ出そうとしたエースさんにつっかかったのは、やっぱりというかシャチ。
彼から聞こえたデートという単語に瞬時に反応した。




『デート…!エースさんと、』


「……え、お、おお…?」


『する!!二度とないチャンス!!』


「うおっ!?」




腕を離したエースさんの腰にがばっと抱きついて逆戻り。そしてもう何度聞いたか分からないブーイング。
なるほど、買い出しという名のデートとは。これはするしかない、エースさんの優しさに浸っていたせいで全く気付かなかった。




「……お、おれは咲来がしたいならいつでも…いいぞ?」


『…え』


「「コラァ!!」」




何そこ二人でいちゃついてんだ!!と外野からの横槍。
しかしそれに構う余裕もなくエースさんの言葉に固まる。思わず二度見した。いや、三度見した。
が、瞬時に彼の思考を読み取りはっとする。




『エースさん……ありがとう、どこまでも優しいのね…。』


「え?いや、おれはそういうつもりじゃ……」


『でも大丈夫!わたしエースさんといられるだけで幸せだから!高望みはしないわ!』


「いや、あのだから咲来」


「……火拳、ドンマイ」




エースさんにぼそっと耳打ちするシャチの言葉は小さすぎて聞き取れない。
直後にがくりと項垂れたエースさんは、その時ばかりはよく分からなかった。






「思ったより手強いな」
(咲来ちゃんは鈍い方の人間か…)
(フフッ、大変そうだな)






END.







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