18
『ローさん何か買うものある?』
度重なるエースさんの気遣いで買い出しに行くことになった私は一旦部屋に戻り乾いたワンピースに着替えた。
船員さん達と甲板にいたローさんに何か買うものはないかと尋ねる。
次の島はこの船のスピードだと当分見えないと言っていたから、ついでにお使いを頼まれようとしたのだ。
「船長といつの間に仲良くなったのか」とシャチに敬語でなくなったことを突っ込まれたので、「船長命令です」と一言答えておく。
「……そうだな…。
特にこれと言ってないが…もし良さそうな酒があれば、何本か頼む」
『お酒?』
「ああ。…そういやお前は飲めないんだったな」
『飲めないっていうか…』
私の国は20歳未満の人が飲んだら捕まるの。
そう言ったらローさんは「酒に年齢制限があるのか」と顔を顰めた。
「……お前、今いくつだ?」
『…18だけど』
「「18!?」」
不意に投げられたローさんの質問に少し躊躇ってから答えれば周りの船員さんが反応。
これだから年齢を言うのは嫌なのだ、私は見た目が幼いゆえに人生において一度も年相応に見られたことがない。
「18か……若ェなあ………。」
「ああ…おれも歳とったわ…。」
「なァ咲来ちゃん、ついでだ!恋愛対象はどっからどこまでだ!?」
『え?』
一体何がついでなのか分からないが、シャチが突然聞いてきた質問に思わず固まる。
なぜこのタイミングでその質問をしたんだろう。
しかし一番よく分からないのはローさん含む船員さんとエースさんが一斉にこちらを振り向いたことだ。この状況で答えろと。
『…わ、わたし年下が苦手だから……。
年上の方が好きかも、…上限とか、考えたことない……』
「なるほどー、じゃあおれは?」
『シャチのことは、好き』
「「えっ」」
ピシリと固まったのはシャチとその周り数名。と思ったらほぼ全員だった。
あれ、答え方間違った気がすると気付いたのはその時で。
「え、……ま、まじ?」
『えっと……シャチのこと好きだよ、うん…』
否定をしようにも事実に変わりはないので否定できない。漫画でローさんと一緒にいたシャチは普通に好きだった。
逆に言えば、この海賊団で名前まで判明していたのがシャチとペンギンとベポ、そしてローさんだけであって。
そういえばジャンバールさんはいないなと今更ながら思った。時間軸的にまだ出会っていないのだろう。
とにもかくにも、名前が分かっているキャラはそれなりに出番がある。好きになっても何もおかしくない。
そもそもこれはさっき公言したはず。
何故驚くのかと不思議に思いつつも、不意に頭を過ったのはエースさんの「あんまり言うなよ」だった。
「…シャチもだが、お前らも気付け。
咲来が言ってる“好き”とお前らが考えてる“好き”は多分、ズレてる」
「「!」」
「船長、火拳。なんで二人まで一緒になってショック受けてる」
固まった空気に助け船を出したのはペンギン。
ああこの人は頼りになると昨日から思っていたことは確信に変わった。
彼の言葉にそういうことかとシャチが頷き、それに続いて船員さん達も頷いた。
ただ彼らの間で違ったのは、シャチは落胆したみたいで船員さん達は安心したようだったこと。
その様子に思わず「わたしに好かれたら迷惑かな」と零せば思いっきり否定された。
「お前なに咲来不安にさせてんだ!
とりあえず行こう咲来、行き帰りに時間かかるから早めに出ないと戻って来れねェ」
『あ、うん!』
「火拳!!おれも連れてけ!!」
「連れてけるか!もともと一人用だぞこれ!男乗せるスペースはねェ!!」
ストライカーを引っ張り出して海に放り込んだエースさんは私を呼んで船の端っこへ。
シャチが着いてくることを振り向きざまに一蹴していた。
そのまま軽々と柵を乗り越えてストライカーに乗り込もうとするものだから「ちょっと待って」と呼びとめる。
私はそんなに身軽ではないし、まず運動神経はゼロだ。体育の成績は平凡をキープするのに必死だ。
仮に船から飛び降りたとしよう、間違いなく着地など出来ずに海にボチャンして終わる。
「おっと、咲来にはちょっと無理あるか。
じゃ、失礼するぜ」
『! わっ』
そう言って軽々と私を横抱きにしたエースさんに思わず赤面する。この私が恥ずかしくないわけがない。
しかしそんな暇もなくすぐに走り出した彼に慌てて落ちないよう掴まった。
数秒後に感じた浮遊感に身構えるが、予想に反して比較的静かに着地した。さすが漫画の世界、身体能力抜群な人間が揃っているらしい。今まで受けてきた学校の体育なんて授業にならないに違いない。
ゆらりと揺れる足元の感覚は、まだ慣れなかった。
『じゃあローさん、行ってきます!』
「ああ。日が暮れるまでには帰ってこい。
…そうだ、アルコール度数の思いっきり低い酒、何本か買ってこい。金なら後でやる」
『? 分かりました』
去り際に聞こえた追加のお使いに首を傾げつつも出発する。
しっかり掴まってろよと言うエースさんに昨日と同じようにもたれかかりながら、ここから一番近いと言われた島へと向かった。
初デートは貴方と。
(人生で一番幸せな時期が来た気がする)
END.
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