25+α


 



『(よっし、)』




一通りネガティブな思考をぶちまけてから吹っ切れたように伸びをする。


出した答えはひとつだけ。帰れるその時が来たら、帰る。方法が分かり次第即実行する。
それまではどうにかこの夢をやり過ごして。物語に影響しないようにできるだけひっそり暮らして、でもできるだけここにいる人たちと思い出なんていうものを作ったりして。

いつか夢が覚めた時に、お互いが素敵な過去として心に留められるように。




『(…さて、何しようかな)』




早く起きすぎてしまったせいですることが無くなってしまった。座ったソファーから部屋をぐるりと見渡すが特に何もない。
袋に入ったままだった買い足した物の整理は今さっきやってしまった。

時計を見ればまだ七時過ぎ、起きたのが六時前だから一時間ほどしか経っていない。
この世界で暇を持て余すというのも微妙である。




『……(エースさん観察しよう)』




そうと決まればソファーに腰掛けている場合ではない。ベッドに舞い戻って腰を下ろす。
顔を覗きこめばすやすや眠るエースさん。




『(かわいい……)』




頬杖をついた状態で覗きこむ。
ゆるくウェーブする髪の毛はきっと生まれつきだろう、案外長いそれに今度櫛でも通してみたいなんて。
かわいいなんて言われても嬉しくないだろうなと思いつつ、でもいつか言ってやろうとも企みつつ。
今思えば私、この人相手によく耐えているものだ。




「………ん、……咲来?」


『!』




何も触ってなどいないはずなのにうっすらと目を開けた彼に焦る。
しかしすぐにまた目を瞑ってほっとするも、直後首の後ろに回った腕にあれっと思う前に倒れこんだ。




「咲来、…」


『ぶっ』




夢と現実を行ったり来たりしているらしいその人の胸に自分の意図と関係なくダイブ。半分寝ている彼の腕力は容赦がなくて抗うことも逃げることもできない。
どうしよう、このままではまた起こしに来たシャチに変な勘違いを植え付けてしまうと考え始めたとこで彼は飛び起きた。




「………ってああ!!ちげェ!!ごめん咲来!!」


『や、わたしそんな困ってないから…』




起こしたつもりはないのだけど、結果的に起きてしまったのだから原因は私なのだろうか。もしそうなら私の方から謝りたい。
肩を押し返してきた彼はやけに慌てていて、まあまあと宥める。




『エースさんの好きなようにしていいのに』


「……、…咲来お前、朝っぱらからまたそんなことを…」




片手で顔を覆う彼にふふっと笑う。この人はこの手の攻撃に弱いらしい。が、そんなことしている場合ではなかった。
昨日のことを思い出してすぐさま土下座の姿勢に直る。




『……昨日はすみませんでした』


「え?あ、いや別に…?」


『多分部屋に運んでくれたのエースさんだよね…ほんとごめんなさい……』


「ンなこと気にすんな!…って、あれ?多分?」


『お酒を飲んだ後の記憶がないの……。』




土下座なんてよせよと笑うエースさんに正座の状態で謝罪する。
私の言葉に引っかかったらしい彼は聞き直してきて、それに正直に答えれば彼は数秒固まった後に「そうか」と軽く笑った。




『わたし何かしなかった?特にエースさんに』


「何もされてねェよ、安心しろ。これといったことはなかったから気にすんな」


『そっか、ならいいや…』




彼の言葉にほっとする。良かった、私が何か害を及ぼすと言えばまず彼だから。
逆に何かされたということは彼の様子からしてなさそうで。この人嘘はつけなさそうだし。
万が一のことも考えて先程お風呂で確認をしてきたけど違和感や痕は特になかった。




『ごめんなさい、わたし起こしちゃったかな……。まだ時間あるから、もう一回寝る?』


「んー、そうすっかな……」


『じゃあわたしも寝る』




することないし。そう言って布団に潜ればエースさんも寝転がった。
やはり一人用のベッドは狭い、仰向けだと肩と肩がぶつかる。

横向きに姿勢を変えれば不思議そうに顔だけ向けてくるエースさん。
腕をとれば一瞬驚いたみたいだけどすぐに呆れたような顔をされた。




「…もう知らねェぞ、お前が好きにしろって言ったんだからな」


『!』




予想外だったのはここからで。
彼が同じように私の方に向き直ったと思ったら片腕で引き寄せられた。
抱き寄せられるのはもう何度もされてるけど寝ながらされるのは初めてで。

「こういうの慣れてねェんだから勘弁してくれ」とぼそっと言った彼にどきりと胸が鳴る。




『……、エースさん』


「…何だよ、嫌だったら叩いてもいいぞ」


『そんなことしない』




まさか私がエースさんにそんなこと。ローさんだったら分からないけど。
ぎゅっと回された腕に対抗して私も片腕を彼の背中に回す。赤いだろうから見られたくないと彼の胸に顔を埋めた。

これは確実にシャチに怒られるだろうなと、そう考えつつゆっくりと目を閉じた。






幸せな夢を。
(今くらいは見ていても、許されるだろうか)



END.



――

+α(おまけ)





「(…ほんとに、)」




こいつは。腕の中で眠り始めたそいつの頭を撫でながら考えるのは昨日のこと。

酒に驚くほど弱かった彼女はほんの少しの酒で酔い潰れて豹変した。
あろうことかシャチとペンギンにべったりで、おれのことは視界に入ってすらいなくて。
見たいようで見たくないその光景をちらりと盗み見たその瞬間の、あいつにしていた軽い口付けが鮮明に焼きついて離れない。

一方で、ローに対しては明らかに反抗していたのは少しばかりほっとした。
しかし彼にも「好き」だと明言していたのは事実、その上で嫌がるというのはおれにはよく分からないけど。




「……、」




先程の「何もなかった」は正直語弊がある。確実に一件あった。おれに対しても、他の奴らに対しても。
それを言わないでおこうと判断したのは無意識の内。

あの一件後、彼女を連れ出したのは正解だった。
シャチなんて、あのまま放っておいたら何をしてたか分からない。ペンギンだってああ見えて何考えてるか。




「……お前は、」




――何がしたいんだろうな。

胸に感じるじわりとした熱は物理的なものか、それとも。
分からない。こいつは何がしたいんだろう。あの「好き」はどんな意味を含んでいたのだろう。シャチにはっきり言った「好き」と、ローに言った控えめな「好き」と、船員全員に向けて言った「好き」とはまた何か違ったものだったのか。分からない。

そしてなぜこのたった三日間で自分はこんなにも揺れているのか。それが何よりも分からない。
確かにそこらの人間とは違う部分が多いが、そもそもは旅先で偶然出会っただけの少女なのに。




「…はあ」




分からないことだらけだ。朝起きて、そしたら――今日はもう少しこいつとゆっくり話が出来るだろうか。

こんな中でも腕に感じるのは確かに存在するひとつの温度で、それを確かめるように力を強めた。





(おれも、何がしたいんだろう)



+αEND.










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