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『(…四日目)』
目を覚ませばもう見慣れてきた部屋の窓と別世界の太陽の光。
初日からカウントしていた数字はまたひとつ増えた。
誰に起こされたわけでもないのに目が覚めてしまい、体はどこか気だるい。疲れが残っているとかそういうのではない、多分精神的な方。
感じた重みに目をやれば予想通り腰に回っていた隣で眠る彼の腕。
『……、』
そういえばこうやって一人でぼんやりするのは二回目だなと、寝起きの頭でそんなことを考える。
ここに来てから一人でいる時間が極端に減った。
それは自分にとってはあまりにも久方ぶりの感覚で、どうにもまだ慣れない。
『(そうだよね、そろそろ考えなくちゃいけないよね)』
“次の島はどんなとこなんだろうな”。
そう呟いた船員さんの何気ない一言はやけに耳に残っている。
理由など明白だった、私は彼らとこれからも旅をしようだなんて考えてはいけないからだと。
――帰らねば。
帰りたくない気持ちはある。むしろどちらかといえば帰りたくない。でも、自分はここの人間ではないから。
異世界、だなんて。なんて馬鹿げた現実だろう。
『(とりあえず時間軸、…)』
やるべきことは大まかにふたつ。
すぐ帰れると仮定してその方法を探すこと、その逆を仮定したときに私のとるべき行動。
昨日ふと、考えたことがあった。この船の向かう先。
それはきっと偉大なる航路であって、そうであるなら物語は確実に進んでいる。
この世界が向こうにある漫画とリンクしているのならば比較的現状を掴むのは簡単。
帰る方法など正直分からないから“しばらく帰れない”という仮定の下での行動を私は取った。
『(物語には、影響が出ないように)』
しばらく帰れないと想定し、その中で帰る方法を見つけるのが今のところ最善策。そう結論が出るのに時間はかからない。
やらなければならないことが大体確定して、その内容に反射的に握りしめたシーツが皺を寄せる。
体に巻きついていた彼の腕に、自分の手をそっと乗せた。
『(エースさん、)』
すぐ隣で眠る彼は初登場時の見た目そのままで、それがまたここで新たに作られた現実を私に突き付ける。
そう、この人は。私の知っている、物語では。
『……、好き』
不意に滲みだした視界はついこの前と同じで。
それでも今日私はこの人に尋ねねばならないと、そう心に決めた。
いつまでも夢は見ていられないのだから。
(せめて、これ以上迷惑をかけないように)
END.
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