34





少しだけ手伝った夕飯と、偶然あった材料でおまけ程度に作ったデザートのフルーツ盛り合わせがあんなにも好評だったのは予想外だった。

あれだけ一人で入るな見張りをつけろと言って問題になっていたお風呂も、なんだかんだベポとさっさと入ってあっけなく終わる。やはり心配など杞憂だった。


さて、本日一番の問題。
私は今寝ようとしてるところ。そうです、夜のコールタイムです。




『えーっと…受話器を取って……』




ぶつぶつとシャチに教わったやり方を復唱する。結局シャチが部屋まで持ってきてくれたし、触るのはこれが初。受話器の部分は機械みたいだし触っても問題ないだろうと、本体に触れないように恐る恐る手を伸ばす。お願いだから動かないで。




『……もしもし、エースさ』


≪咲来〜〜〜!!無事か!!?≫




受話器を取れば、確かに独特なコール音の後にがちゃりと音がして相手が出た。電伝虫で電話体験をしてしまった、ファンとして感動というかなんというか。でもこのサイズのリアルカタツムリはやっぱり怖い。

カタツムリもさる事ながら、電話相手にも少々問題が。1コール直後だったことを踏まえると待機されていたとしか思えない。そろそろこの私でも呆れ始める。そんなに過保護にならなくても。




『無事よエースさん、そっちは?』


≪おう、何もねェ!それより聞いてくれ咲来!!
こいつらおれを何のために呼んだと思う!?≫


『え?』




“自力で火をつけるのが面倒だからおれを呼べばいいんじゃねえかって!”。
いくら近くにいるからってそれはあんまりだと電話越しに喚く彼をまあまあと宥める。




≪酷くねェか!?おれはてっきり戦闘でもあるのかと思って来たのによ!!
こんなんなら咲来も連れてくりゃ良かった!!≫


『あはは……いいじゃない、そんな用事でエースさん呼べるなんて仲良しな証拠で』


≪良くねェよ!今すぐ戻りてェけどどのみち後で合流できるルートだし…急に帰るのも怪しまれそうだし…≫


『せっかくなんだから、こっちのことは気にせずゆっくりしてきてよ』




私のことなんて忘れてのんびり仲間達と過ごすといい。
そう言えば「咲来と遊んでる方が楽しい」なんてすかさず返ってくる。いやだから、そんなに仲良しだっけと。まだ会って数日のはず。楽しいなら良いのだけど。




≪咲来、そっちは何か変わったことなかったか?手ェ出されてねえか?≫


『大丈夫だって。何もないよ』


≪そっか……ならいいんだ。
…なァ、咲来……寂しくないか?大丈夫か?≫


『大丈夫よ。みんなもいるし』


≪……、…そうか≫


『…?』




ふと、悲しげになった声と電伝虫。
最初こそ首を傾げたけど、なんとなくその理由が分かった気がして。




『……嘘だよ。
寂しいよエースさん、……会いたい』




無遠慮にぶつけた言葉に、電波の先の彼は確かに喜んでいたようだった。




≪…へへ。おれも会いてえなァ……あと六日か≫


『うん』


≪なるべく早く戻るからよ。それまでは電話で我慢だ。
そろそろ寝るだろ?あんまり夜更かしさせて体調でも崩したら大変だからな……おやすみ、咲来≫


『おやすみなさい、エースさん……ねえ』


≪ん?≫


『大好き…』


≪…へ≫


『それだけ。おやすみ』




ガチャリ。受話器を戻せば電伝虫は静かに戻る。
最後の驚いたような間の抜けたような声に少し笑いつつ、ベッドに潜る。

昨日まで隣にあったはずの温度に、寂しさを覚えながらも目を閉じた。






おやすみなさい、良い夢を。

(貴方が幸せな夢を見られますように)







END.






<<prev  next>>
back