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「ねえ咲来、次の島が見えたよー!」




その可愛らしい見た目の割に、やけに低い声をしているベポが私を部屋まで呼びに来た。


十日目。ついに二桁を達成してしまったその数字が書かれたメモを見て焦りを感じないはずがない。




『ほんと?』


「うん!まだ望遠鏡で小さく見えただけだから、着くまではもうちょっとかかるけど」




楽しそうなベポに自分のマイナスなテンションは伝染させまいと、出来る限りの明るい顔で振り返る。
十日。もうこんなにも時間が経ってしまった。




「じゃあ咲来、また着きそうになったら教えに――」




「来るね」、と彼が続けようとした瞬間。

――バタン!
不意に、部屋のドアが乱暴に開かれた。




「ベポ!お前も来い!敵襲だ!」


「『!!』」


「後方から海賊船2隻だ、人数多そうだからお前も参加しろ!」


「アイアイ!ちょっと行ってくるね咲来、ここで待ってて!」


『う、うん』




ドタドタと騒がしく船員さんの後を追いかけて出ていくベポ。遠ざかっていく足音、急速に高まっていく不安。

敵襲。ここに来てから初めてだ。




『(もうすぐ島に着くのに……)』




島にいた海賊か、もしくは同じように島を目指していた海賊か。詳細なんて知る術もないし知ったところで何も起こらないけれど。

静まり返った部屋で聞こえるのは自分の呼吸音だけで、表の様子なんて分からない。
しかし次の瞬間、銃声のような音が耳に響いた。




『(始まった)』




どくん、どくん。
自分が生きていた世界ではまず遭遇しないであろう、それ。テレビでしか見たことがない戦闘シーン。
あまりにも現実味のないそんな映像だけでは何の心の準備にもならない。

途切れ途切れだった銃声がだんだんと連続したものになっていく。
刃物のぶつかるような音が聞こえてくる。
音だけではまだリアルさに欠けるが、これはテレビから聞こえてくるような音声じゃない。現実の音だ。
今実際にすぐ近くで、実物から発せられている。




『(早く終わって、……)』




海賊なんて、漫画でしか見たことがなかった。本物の海賊なんて想像したこともなかった。きっとこんなことになってなかったら、これからもそうだった。


お願いだから早く終わって。早く知らせに来て。早く私を呼びに来て。勝ったよ大丈夫だよ、もう島に着くよ、って。

早く、早く、早く。


どこかで、ガラスの割れる音がした。




『(……、誰?)』




こつり、こつり。

足音が響き始める。だんだんと近づいてくる。多分、この部屋の前の廊下。
靴の音でベポじゃないと直感で感じた。なら、誰?他の船員さん?他の人が呼びに来ることになったの?

大丈夫。ローさんが負けるわけないし、ここに来るなら見知った人以外有り得ない。
落ち着け、落ち着け。深呼吸。
喉からヒュウ、と細く細く呼吸音がした。


部屋の前で止まる足音。ギシリと鳴る床。回されるドアノブ。




「……ん?誰かいんのか?」




悲鳴は出なかった。






リアリティ

(すべてが、)




END.









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