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だんだんと騒ぎが遠くなっていく。


つい昨日まで近寄っただけでもギャーギャー煩かった奴が、今腕の中で静かに丸まっている。
船内は割られた窓ガラス以外は荒らされている様子がなくて、思った以上に静かだった。




「手当の準備をするから、少し待ってろ」




自分の部屋のベッドにそいつを下ろして救急箱を取りに行く。
おれの言葉に彼女はただ泣きじゃくりながら頷くだけ。




「首だから多少血が出てるが傷は浅い、数日もあれば塞がるだろう」


『……ん、…』


「悪かった…おれの責任だ」




もう乗せてから十日だと誰かが言っていた。お互いにほぼ完全に馴染んだと言えると思う。
素性が知れてないといえど、こいつが船にいることに違和感はない。

自分に着いてくるクルーを守るのは船長として当然のこと。
今回の戦闘に関して落ち度があったとすれば、普段と違う戦闘になることを予測しきれなかったことだ。戦えない人間がいる戦闘が初めてだったから“想定外”に対処できなかった。


首の傷は浅かったが、彼女の反応を見る限り精神的には深かったかもしれない。
喋ることもまともに出来なくて、最初はそれこそ目の焦点すら合っていなかった。

図らずともこれでこいつが本格的に戦いに無縁な世界で生きてきたことが証明された。首に切り傷、何の変哲もないただのナイフでの脅し――それでここまで怯むようでは戦闘なんてとてもじゃないができない。




「残りはあいつだけだった……そろそろ片付いただろう。
何か飲み物でも持ってくるか?」




背中をさすってやってるうちにだんだんと落ち着きを取り戻したらしい咲来。クルーや火拳と騒いでいたときとは別人のように静かだった。
おれの質問には軽く首を横に振って、本当に小さな声で「いい」と続ける。




『まだ、ここに…いて、』


「……ああ」




泣き腫らした目は薄暗い部屋でもわかるくらい真っ赤で、まだ時々その頬を涙が伝う。

他人を気遣うなどはっきり言って自分には向いていないし方法も分からない。それでも、クルーの頼みくらいは聞いてやろうと思う。




『…ありがとう』




ぎゅっとおれの服の裾を握った咲来は、まだ笑ってくれはしなかった。






小さな、




END.






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