04
『この速さは無理…っ』
そう言っておれに抱きついてきた子は、さっき立ち寄った小さな島で出会った女の子だ。
おれはその島に特別用があったわけじゃなかった、ただ単に島が見えたから寄ってみただけ。海賊ならごく普通のこと。
歩き回ったが特に何もなく、少しばかり気を落として島を出ようとしたところで彼女を見つけた。
太陽の光が降り注ぐ砂浜に眠っていた少女。その姿はまるでお伽噺の一場面のようで、不思議な感じがしたのを覚えている。
好きで寝ているのかと思ったが、苦しそうな表情が明らかにおれの思考とは反していた。
もしかしたら倒れてるのかもしれないと声をかけに行った、その時だった。
『……っ!』
「っ、いってー!」
顔を覗き込んだ瞬間に彼女が飛び起き、見事に衝突。
完全に油断しきっていたおれは普段なら喰らうはずのない打撃を久しぶりに受けて思わず声をあげる。
飛び起きた彼女と言えば、最初こそぼんやりしていたがおれを見るなり謝ってきた。そして固まった。
何故だろうと首を傾げれば名前を聞かれ、答えたら答えたでまた固まられる。
さらにはここはどこかとまで聞かれて、いよいよおれの頭はクエスチョンマークでいっぱいになった。
その後、“咲来”と名乗る彼女に話を聞いた。
彼女は自分がどこか別の場所から来たという、ここは漫画で見た世界だと説明した。
よくわからなかったが要するにおれは彼女の世界では作り話の中にいる人物らしい。
でもおれはこうして生きている、さっぱり話が分からないし理解しがたかったが、消え入りそうな声で話す彼女に直感で嘘は吐いてないと感じた。
もし本当なら彼女だけではどうしようもない状況であるわけで。そして同時に、おれを必要としてくれた。
泣きそうな声で「エースさんがいなくなったら困る」と言われた。
その時に連れ出すことを決めていたんだと思う。
とっさに口から出たのは「おれと一緒に行こう」という誘い文句だった。
で、今。
落ちたら危ないしとストライカーの前部分に彼女を乗せて、肩を支えていつも通り運転していたのだが。
乗り慣れていない咲来にはかなり怖かったようで、スピードを緩めるよう指示を出された。
「一瞬でいいから」という懇願にとりあえず炎を緩めた、そうしたら。
その一瞬を使って彼女がこっちを向いて、あろうことかおれの背中に腕を回してきた。
「………」
――何だ、この状況は。
女の子に密着されるなんて経験はそうあったものじゃない。咲来には危機感というものがないのだろうか、それともこういうことをしても平気だと思っているのだろうか。でも多分どちらでもないだろうとやけに冷静を保つ頭の隅で考える。
純粋に怖かったのだ、背中に回る腕は震えているし、顔をあげようともしない。
でもな咲来、いくらそれでも可愛い女の子が男にこんなことするのはあんまり良くないぞ、なんて怖がる彼女には言えるはずもなく。
とにかく取るべき行動は咲来を落ち着かせることだと思い、恐る恐る背中に腕を回した。
完全に抱き合っている形なのだけども、そうするくらいしか方法はないと言い聞かせる。別に下心なんてない、ただ怯える咲来を安心させたいだけ。
「……咲来、大丈夫だから、な」
ぽんぽんと頭を撫でれば、少し腕の力が緩くなった気がした。
落ち着いたかなと前に気を付けながら様子を窺う。
表情が柔らかくなったように見えて安堵したのもつかの間、おれの名前を呼びながらすり寄ってくる彼女に今度ははっきりと心臓が波打った。
「…っ!」
見る限り無意識。きっと焦っているのは自分だけ、咲来は恐怖と闘うので精一杯。
さっきまでの冷静さは一瞬で失われる。胸の鼓動は波でかき消されていると信じたい。
無心無心と何度も言い聞かせながら、どこまでも続く見慣れた海面に船を走らせた。
胸に感じたのは違和感と熱。
(……、もしかして着くまでずっとこのままか?)
END.
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