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『えっ…?』
「ホラ、」
トントンと肩を叩かれて思わず振り返ってしまう。振り返ってから後悔した。
自分の倍ぐらいある到底人間とは思えない身長。変わった形をしたサングラスで隠れてその瞳は見えない。
怪しげに笑う口元と、頭に刷り込まれているその人の残虐な性格。
初めて間近に感じたその人に、ぞくりと背筋に何かが伝う。
視界に入れただけで恐怖を感じるのは仕方のないことだった。
「今お嬢ちゃんが落としたと思ったんだが……違ったか?」
『えっ…いや、あの』
“違います”
震える唇でそう言いかけて――止まった。
『え』
その人が手に持っていた“落とし物”。
小さなストラップだったが、それを見た瞬間に思わず口の動きが止まる。
『(日本――の、)』
――“国旗”――…
「違うか?違ったなら悪ィな…おれの勘違いだ」
『い、いえ、』
「こりゃ確か…ニホンってとこの旗か」
『!!!』
心臓がバクバクと煩い。額に冷や汗が伝ったのは昨日ナイフを首にあてがわれた以来、人生で二度目だった。
――知ってる?
いやそんな、まさか。
『あ、あの、…それってどこか、わかりますか……?』
「ん?」
『あの、その、日本…ってとこ、』
白ベースに赤い丸。この人も「旗」だと言い切った。見間違えるわけがない。
“それ”を指差す手が震えた。
まさかこんな、
こんなところで、その単語を聞くことになるなんて。
「お嬢ちゃん…この国、知ってるのか?」
『えっ、と、』
動揺して上手く口が回らない。知っているどころではない、この十日間ずっとそこへの道を探していた。
こんなチャンス、逃したらきっともう二度と帰れないのに。
舌がもつれて絡まって、そうしてるうちにエースさんよりもずっと背の高いその人が屈んで顔を覗き込んできた。
「お嬢ちゃん……ちょっとそこで、茶ァしねェか?」
『え』
「フッフッフ…隣のは火拳だな?噂は聞いてるぜ、七武海断ったってな。
ちょっとお嬢ちゃん借りるぜ。なァに、そんなにかからねェ」
「何でどこの誰かも分からねェやつに咲来を易々渡さなきゃなんねェんだ。断る」
「フフ…そうか、火拳を落としたのか……」
話がどうも噛み合ってないらしい二人。エースさんは「無視すんな」と怒り始めたがドフラミンゴさんは私に興味があるようでなおも顔を覗き込んでくる。
お茶、というのは要するに話がしたいという意味だろう。
もしかして本当に日本への帰り方を教えてくれるのだろうか。それこそ逃すわけにはいかない。
『エースさん、ちょっとだけ…ちょっとだけ、わたしもお話がしたい』
「……。
仕方ねェな…じゃあおれも着いてく。…離れて座るくらいならいいだろ」
『ありがとう』
「フフ、決まりだな」
あそこでいいだろうとドフラミンゴさんが近くのカフェを指差す。
エースさんは腑に落ちないと言いたげな顔だったけど、ひとまず頷いてくれた。
帰り道から方向転換。心臓はまだ激しく波打ったまま。
こんなところでこんなチャンスが来るなんて、思ってもみなかった。
急展開
(予想だにしない)
END.
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