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“じゃ!ソッコー帰ってくるから!!”




そう言ってあの人が出かけたのはここに来て二回目になる。

せっかく一週間ぶりに会えたと思ったらまた行ってしまった。今度こそ戦闘の用件で、前とは別のお仲間さんからのヘルプ。




『(あー…)』




自分ひとりになった部屋のベットにごろんと寝転がる。
エースさんを見送ると同時に出航したこの船。
仕事もいつも通りこなしたつもりだったけど、多分隠しきれていない。

昨日のこと。
偶然見てしまった、あまり見たくなかった光景。


船長のローさんがあんなだし、何となく予想はついていたのだけど。
いざ目の前にしたら思ったよりショックが大きくて、エースさんの前で泣いてしまった。




『(みんな、大人の男の人だもんなあ)』




考えてみれば当たり前の話。ここには私以外男しかいないわけで、しかもみんな一回りくらい年上で。
“そういうこと”を行く先々で発散してようが何もおかしくはない。むしろそこ以外機会がないじゃないか。
分かってはいるのだけど、漫画では当然そんな描写なんてなかったから、この世界で垣間見たリアルが自分の中で気持ち悪いくらい印象的に焼きついてしまって。

何でショックを受けたのか、何で泣いてしまったのかなんて、単純にあの人達をそれだけ好きだったってだけだった。
好きだったからショックを受けた。なんて一方的な感情なのだろう。なんて一方的な片思いなのだろう。


そんなのは全部、昨日吐いた“バカみたい”という一言で片付けられた。
私は今こんなことをしている場合ではない。




『(みんなといれるのはあと少しなんだから…こんなとこで寝転がってる場合じゃ……)』




一人でゴロゴロするなんていつだってできる。何をやってるんだろう、私は。
分かってても、まだ顔を合わせて普段通り過ごせる自信がなかった。失礼な態度をとってしまう気がした。

寝返りを打つ。エースさんから受け取った電伝虫が視界に入った。
毎日、寝る前にコール。




『(声……)』




――聞きたい。
今かけたら迷惑だろうか。急用のように見えたしきっとそうだろう。

でも声が聞きたい。
今他の人とこんなだから、ここにはあと少ししかいれないと考えてるから、無性に声が聞きたい。


受話器を取ろうとした、その時だった。




「咲来ちゃん!」


『!!』




――バタン!

突然勢いよく開いたドアに思わず肩が跳ねる。
目をやれば慌てた様子の船員さんがそこにいた。




「敵襲だ!今回はおれが咲来ちゃんの側に付く!」


『はい!』




銃を持った船員さんが部屋に入ってきて、小窓から外の様子を覗う。
敵襲、らしい。外の様子はここからは見えないけれども。


前回の話し合いの通り、見張り役として指名されたらしい彼は真剣な眼差しで窓の外と私を交互に見た。




「街にいた奴らか……そのへんの通りすがりか。
よく分からないが、今回も人数がそこそこ多い。海軍ではなさそうだ」


『そう…ごめんなさい、迷惑かけて』


「迷惑じゃない。咲来ちゃんを守るのも大事な仕事なんだから」




本来ならば一緒に表へ出て戦っているのであろう。私がいるせいで余計な仕事が増えてしまった。
しかし謝っても「気にしないでくれ」としか返ってこない。




「船長もいる。すぐに片付くさ」


『……、うん』




見上げた視界の隅で、護身用に借りた鉄パイプと拳銃が転がっていた。






また、祈ることしかできない

(早く…終わって)




END.







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