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『それにしても、今更貴方に好かれるようなことした覚えはないんだけど…。
まさかここまで来て見た目なわけないだろうし…』


「え、沙月の見た目は最初から好きだったよ?」


『は?』


「いや、キミの推測通り女性としてタイプだったわけじゃないんだけど…その反応、その見た目でやられると傷付くな」




あまりにも冷たい返事が返ってきて少々凹む。
元から沙月はそういうところあるけど、“男友達”だから気にしていなかっただけらしい。明らかに“女の子”である今の沙月にされたら結構刺さるものがあった。

見た目が好きといっても恋愛的な意味での好きではない。そうだったらそもそも協力者として誘わない。
単純に、沙月の顔立ちが綺麗だと前から思っていただけだ。美しいものが好きであることは人間として何もおかしくはない。


僕の言葉に沙月が「見た目が多少違う程度で傷付かれても」とボヤいたが、ここまで劇的にビフォーアフターで変わっておいて「多少」はないと思う。




「沙月、僕のワガママたくさん聞いてくれるだろ?
それで知らず知らずのうちに好きになってたんだ…恋だと自覚したのは最近だけどね」


『…え、それだけ?』


「それだけって…僕にここまで快く付き合ってくれる人なんてそうそういないぞ?」




心底「意外」とでも言いたげに目を瞬かせる沙月を、テーブルの向かいから頬杖をついて眺める。

夜中の2時に電話をして叩き起こし、バイクで迎えに来させて来てくれる人は僕の知る限りでは沙月しかいない。というか、そんなことを平気で頼むような仲の人間は沙月だけだ。
まさに“男友達”。少なくとも、年下の彼女でも家族でもない女の子にさせるような真似ではない。

嫌な顔はされるが、一応毎回動いてくれるので友のほとんどに先立たれた自分としてはそれが嬉しかったのだと思う。




「昔…小さい頃、大好きだった先生の気を引きたくて、わざと喧嘩して怪我をしてたことがあって。
今の僕は沙月にワガママ言って気を引いてたんだと思う…我ながら子供っぽいな」


『貴方がワガママなのは今に始まったことじゃないと思うけど…』


「…そう、だから…きっと前から僕は……」




──沙月のこと、好きだったんだよ。
口には出さなかったけど、察しの良い彼女には充分だろう。




『貴方がわたしを好きになる理由はさっぱり分からないけど…まあ、とりあえず貴方の気持ちは分かったわ』


「ここまで言ったのにさっぱり分からないってどういうこと?」


『貴方みたいな人間がわたしを好きになる意味が分からないって言ってんのよ』




「貴方なら選び放題でしょうに」。
恋愛に無関心そうな彼女が漏らしたその言葉には少し驚いたが、僕のことをそれなりに高く評価してくれているみたいなのでひとまずはポジティブに受け取っておく。




『…契約上、これ以上はノーコメントってことで通させてもらうけど』


「そうしてくれ。返事は必要ない…」


『それとは別に、安室にお知らせしておきたいことがあるんだけど…』


「何だ?」




残り少ないパスタをフォークに巻き付けながら、沙月が考える素振りを見せる。
この流れで一体何を言い出すのかと思いきや、とびきり美人な彼女の口から出たのは思ってもいない言葉だった。




『わたし、未だに恋愛感情がどんなものなのかよく分からないのよ…』


「……えっ?」






時間にすると約3秒


(…安室、起きてる?)
(いや、一瞬飛びかけた)





END.






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