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「(やっぱりおかしいよな…)」
冷たい風が吹き抜けていく。
人目のつかない橋の下、情報を共有するために部下の風見と待ち合わせ。
見覚えのある車とその傍に立つ風見を見つけて自分も車を停める。約束の時間にはまだ5分ほど余裕があった。
「待たせたか?」
「いえ、自分も今さっき到着したところです」
「お疲れ様です」とこちらに来た風見は上着のポケットから袋に入ったチップを取り出す。今回彼に頼んでおいた情報が詰まっているであろうそれを受け取りポケットに突っ込んだ。
警察関係者の中で一番会う頻度の高い彼には、僕の命令で沙月と協力者関係を結ばせている。沙月は僕の協力者だが表向きは風見の協力者だ。彼女との契約時、自分の立場を考えるとその方が動きやすいと見越したためそのようにした。
僕が時間を取れないときに沙月との連携を任せているのも彼。
ときどき双方から話を聞くが、仕事としては二人はそれなりにうまくやっているように思える。
特別仲が良いイメージがあるわけではないが、世間話の代わりにこの前ふと抱いた疑問をぶつけてみることにした。
「風見は先週沙月と会ってたよな?」
「はい、荷物を受け取りに…階川さんがどうかされたんですか?」
「あいつって男に見える…よな?」
「…はい?」
いきなり何を言い出すんだと言いたげな風見がメガネを指で押し上げる。唐突にこんな話をすればそんなものだろう。
しかしこの質問をするには沙月をある程度知っている人間でないと意味がないし、僕の周りなら風見が一番適役だ。
この機会を逃すと気になったまま何日も放置することになる。
風見と僕と沙月が揃っていたとき、沙月はもちろんいつものあの格好だった。
初見ではとても女性には見えないあの格好。誰が見てもあれは男に見間違えるはず。
だから風見も迷いなく「そうですね」と答えてくれることを期待していた――のだが。
「確かに男性にも見えますが……自分はとても美人な方だと思います」
「…女に見えるか?」
「見えるも何も、仕事以外の場では女性にしか見えな……え?」
「風見、飯に行くぞ」
――知っている。
そう分かったときには、彼を近所の居酒屋へと引っ張っていた。
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