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『あら…楽しそうね』
12月25日。クリスマスと呼ばれるその日には毎年うちの職場でイベントを開催する。
今年も例外なく開催され、後片付けで遅くなったがその足でポアロに立ち寄った。
「笑い事じゃないです!!」
店に入り目が合った瞬間怒り出したその人は、お得意の営業スマイルはどこへやら。ぷんぷんというオノマトペがよく似合う顔をして私を出迎えた。
『良いじゃない…可愛いわよ』
「こればっかりは褒められても嬉しくありません!」
──というか“可愛い”は嬉しくないから!
おそらく今日一日不機嫌だったであろうその人は、ここにきて更に不満を爆発させたようだった。
彼が怒っているのは彼の着ている服の色。クリスマスと言えばサンタクロース、サンタクロースと言えば真っ赤な服。梓さんが今日のために衣装を用意したらしく。
事前に赤い服はダメだと言ってあったがまさかここまで毛嫌いしているとは思うまい。サンタクロースの衣装を用意された安室は渋々その服を着て仕事をしていたが、私相手には取り繕う必要がないので遠慮なく怒っているわけだ。
事情は知っているものの、正直赤色がとばっちりを受けているだけな気もする。
「ごめんなさい、そんなに嫌いだったなんて…」
『良いのよ、気にしないで。安室が大人気ないだけだから』
「沙月は他人事だからそう呑気に…」
いくら嫌いな人が赤色イメージだからって、赤色のものをそこまで毛嫌いしなくても。それくらいその人のことが嫌いなのは分かっているが。
私も職場でサンタ役をやっているので、安室はうちには呼べないなあ、なんて。
「あむぴって赤ダメなの?」
「うーん…ちょっとね…」
「さっき渡したやつ、袋が思いっきり赤だった〜!ごめん!」
「いいよいいよ、大丈夫」
『…で、用事って何かしら?手短にお願いね』
「ああ…沙月、ちょっとこっち」
「荷物預かりましょうか?」
『ええ、ありがとう』
会話の内容からして、カウンター席にいた女子高生らしい二人組は安室にクリスマスプレゼントを渡したらしい。熱心なことだ。きっと常連さんなのだろう。
その様子からあまり長居すべきではないことを察し、“用事”とやらをさっさと終わらせるべく安室に声を掛け、彼の誘導で従業員入口へ向かう。
安室がパタンと後ろ手に扉を閉めると、狭い空間に二人だけになった。
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