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――




『ちょっと…』




彼が風呂場に消えてから30分。
具合が悪いのを知ってるとはいえど事が事なので見に行くのもアレだし、部屋で大人しく待機していたのに。あまりにも戻ってこないから、いい加減声くらいかけてみようかと腰を上げた。

洗面所のドアの前でまず一回。何も答えないからドアを開けて風呂場の前でもう一回。
名前を呼んだのに返事がなく、物音すらしない。他人の、それも年上の異性が入っている風呂場の扉なんて開けたくもないが、中で倒れでもしていたら困る。一応ノックもしたから、覗き見になったとしても言い訳は聞かないことにした。


心配半分気まずさ半分、ドアを開けたらそこには、




『…信じらんない。寝てるの?』




全裸…ではなく、半端に服を身にまとった状態でバスタブに寄っかかっている安室がいた。
静かだったし息をする音はすぐに聞き取れたから、彼を心配したのはそこまでで終わり。

服を着たままやることやってそのまま寝ちゃったってところか。
全裸を想定して手に持っていたバスタオルを寝ている彼に投げ込む。

見る限り、服を脱ぐのが間に合わなくてそのまま。ジャケット脱いでただけマシか。
いろいろ思うところはあるけど寝ている本人に言ったところで意味がない。すぐさま換気扇のスイッチを入れてシャワーを手に取る。

何が悲しくて彼氏でもない男の人の後処理をやらないといけないのか。




『あー、もう…』




彼の腰部分にバスタオルを引っ掛けて、汚れた服を脱がしにかかる。
ここが洗濯機付きのビジネスホテルで良かった。脱がした服を片っ端から洗濯機に投げ込んで、汗に塗れた身体にシャワーでお湯を掛ける。




『媚薬の次は風邪薬飲む羽目になるわよ?』


「…ん……」


『…つくづく呼んだのがわたしで良かった、ねっ!』




適当に拭いてからその男を背中に乗せる。仕事柄私は力があるけど、こんな大の男を背負える女はそうそういない。
裸のままベッドに寝かせて布団を被せた。濡れた髪をホテルに置いてあったドライヤーで乾かしてやる。




『(わたしこの人の世話係か何かだったかしら…)』


「ん…?」


『…起こした?悪いわね』




ドライヤーで目が覚めたのか、もぞもぞと反応を見せる。
うっすら目を開けこちらを見た。どうせ服もまだしばらく用意できないから寝てて貰った方がありがたい。

布団を掛け直すと、安室はなぜか少し不機嫌そうな顔をした。




『…何?』


「手……」


『手が何?』


「…手、握って……沙月」




布団から片方だけ手を出す安室。仕方なくドライヤーを机に置いて、言われるまま手を握る。




「…ふふ」




満足そうに笑うだけ笑ってまた寝始めた。薬なのか寝ぼけなのか考えたけど、多分どっちも。
さっきとは違う意味で彼らしくない。

時計を見る。今からこの人が寝るとして、起きるのは何時間後だろうか。
今日やりたいことがあったけど仕方ない。ずり落ちた布団を掛け直しながら、もう何度目か分からない溜め息をついた。




『これじゃ見張りがやりづらいでしょ…』




ホテルだからそう滅多なことは起きないだろうけど。

寝息を立てる彼の髪に指を通せば男とは思えないくらいするする通る。髪なんて初めて触ったけど、普段どんな手入れしてるんだこの人。
ドライヤーの途中、散らばった状態で終わっていた彼の髪を櫛で整える。確かこんな感じだったような。


重ねた方の手から未だに高い体温が伝わってくる。
このまま落ち着いてくれると良いんだけど。


ふと目を移した窓の外は、ちょうど日が暮れるところだった。






平熱プラス2度






END.






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