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──




「そんな安物でいいのか?」




一通り服を選んで購入して、次は沙月がダミーとして付けておきたいと言っていた指輪を探す。いかにもなジュエリーショップがあったから入ろうとしたら断られ、代わりに連れてこられたのは安価なアクセサリーも売られている雑貨店だった。




『良いのよ。高いのを買うつもりはないわ』


「僕が買ってやるのに」


『貴方は選ぶだけでいいって言ってるでしょ』




洋服代も出そうと思っていたのに気付けば会計を済ませていた沙月は、今日は飯以外僕に奢られる気がないらしい。沙月の見た目がどうであろうと僕が年上の男であることは事実で、仕事でも上司みたいなものだから奢ろうとしたら全力で断られた。
それこそ“男友達”ではなく“女の子”としての沙月に奢るのは彼氏みたいで良いな、とさえ思ったのに。




『さすがにあんまり種類はないけど…』




トレイに載った指輪を手に取って見比べる沙月。
ジュエリーショップに売っているような豪華な石のついた指輪はないが、その様子はなんだか楽しそうだった。




「(可愛い…)」




沙月を女の子としてそう思ったのは初めてかもしれない。「かっこいい」とか「綺麗」とか、普段の沙月にはそういう言葉の方が似合うから。




『どれがいいと思う?』




候補らしい指輪を3つ沙月が持ってきて、その声で現実に引き戻される。

ぐるっと一周石がついたもの、真ん中にひとつだけ石がついたもの、リング部分がねじれたデザインのもの。沙月がこの前していた指輪と似ているけど、シンプルに石がひとつだけついたリングが良いと思った。意外に趣味は合うのかもしれない。


僕の選んだ指輪を持って沙月がレジへ向かうのを見送る。仕事柄女の子にプレゼントを贈ることはあるけど、プライベートで彼女と買いに来たことはない。女の子の好みはなんとなく分かってるけど、一人のために真面目に悩もうとしたことはない。

沙月の足を止めさせた、ズラリと並んだアクセサリー達を眺めた。




「買えた?」


『ええ。つけて帰ろうかしら』


「…あ、待って」




レジから戻ってきた沙月が袋から指輪を取り出したのを見て、それを奪う。
パッケージを開封しながら「指」と言うと沙月は僕が何をしたいか察したみたいで、こちらへ右手を差し出した。




「(…なんか、)」




案外ちゃんと、恋、できてるな。


色黒の僕とは違って、色白で綺麗な細い指に買ったばかりのリングを嵌める。いくら沙月が男に見紛うほどのイケメンだとしても、体のパーツはやはり女性的で細い。

彼女の手に触れる自分の指が震えているのが分かる。顔が熱くなるのが分かる。手を取るだけでこんなにも緊張するものかと、こんなにも胸が高鳴るものかと。似合ってるよ、なんて“安室透”ならいくらでも言えそうな褒め言葉のひとつすら、“降谷零”からは出てこない。




『…らしくないわね』


「……、かっこ悪いな」


『そんなことないわ』




──貴方はいつでもかっこいいわよ。

やっとの思いで手を離して顔を上げたら沙月が照れたように笑っていたから、その顔が直視出来なかった。
堪らず俯いたまま歩き始めて、沙月が後ろから着いてくる。絶対に赤いから彼女の方を振り向くことは出来なかった。




「…!」




ふと視界にショーウィンドウの端がちらりと映って目を向ける。目の前に広がった光景に、思わず足を止めた。




『…まだ気が早いんじゃない?』




追い付いた沙月が隣で立ち止まる。
僕らが見上げた先に並んでいたのは、真っ白で煌びやかなウェディングドレスとタキシードだった。




「お前、今」


『貴方なら洋装でも和装でも似合うわ』


「! おい、待てよ」




たった数秒で歩き始めた沙月を慌てて追い掛ける。
僕は今こいつに、なかなか衝撃的な発言をされた気がしたのだけど。

治まってきたと思った心臓の鼓動が再び大きく鳴り始める。
僕とは対照的に涼しい顔をして振り返った沙月の指には、僕の選んだ“ダミー”のリングがキラリと光っていた。






相手のいないペアリング


(そのうち、)




END.






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