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「いらっしゃいませ!」




店に響いた鈴の音に梓さんが顔を上げる。
開いたドアの前には背の高い人が立っていて、洗い物をしている僕の代わりに彼女が対応をしに行った。




「おひとり様ですか?」


『はい』


「奥の席にどうぞ!」




日が落ち、窓の外は薄暗い。ぽつぽつと空席が目立つ中、入ってきたその客が黙って梓さんの後ろをついていく。

いつも通りニコニコと笑顔で対応する彼女も、夕飯を食べに来ていたコナンくんも蘭さんも。どうやら全く気付いていないらしい。
そのまま“そいつ”がナチュラルに席に案内されたので思わず笑ってしまった。




「ねえ、すっごいイケメンさん!」


「はは…そうですね」


「系統は違うけど、ひょっとしたら安室さんと同じくらい…あれ?安室さん?」




案内から戻ってきた梓さんが僕にこっそり耳打ちする。背が高いだけでも充分目立つけど、どこにいても目を引くそいつの綺麗な顔立ちはここでも健在だった。梓さんだけでなく店内にいた他のお客さんもちらちら注目している。
キリのいいところで手を拭いてからその人物の元へ行くと、梓さんが不思議そうな顔をしてこちらを振り返った。




「何普通に座ってるんだよ、お前」


『…ダメだった?』


「まあ、いいけど」




本人がネタばらしをしないなら僕がするまで。
梓さんに見えるようにそいつを指差すと、彼女が「安室さんの知り合い?」と零す。僕の知り合いなのは確かだが、梓さんも知っている人だ。




「えーっと…。こいつ、沙月です」


「「……えぇええええ!!?」」


『いい反応ね』




梓さんが近くに座っていた蘭さんと揃って声を上げる。
当の本人は、「忘れられてなくて良かったわ」と出された水を飲みながら呑気に呟いた。







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